出入国管理において外国人の収容が「最後の手段」であるべきことは、国際的なルールであり、難民申請者を含む外国人の収容が長期化している日本の状況に対して、国内外から懸念が示されてきました。
長期収容の要因の1つに、一定条件のもとに一時的に収容を解く「仮放免制度」が厳しくなっていることが挙げられます。ここでは、仮放免制度が厳格化されてきた経緯を、政府の通達等から振り返ります。また、仮放免制度の積極的活用を含めた長期収容問題の解決にむけて、改善点を考えました。
1.仮放免制度の厳格化による収容長期化の経緯
仮放免制度は、その基準や要件が出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)で明確に規定されておらず、仮放免の対象などは出入国在留管理庁(以下、入管庁)の運用により変更されてきました。
2010年7月30日、法務省入国管理局は、「収容が長期化する被収容者の増加」を踏まえ、「被収容者の個々の事情に応じて仮放免を弾力的に活用することにより、収容長期化をできるだけ回避するよう取り組む」との方針を発表しました。
しかし、2015年9月18日の通達で、「訴訟の提起・係属、難民認定申請中、旅券取得困難など送還に支障のある事情を有するために、送還の見込みが立たない者については…仮放免の活用を図る」とし、仮放免の対象を限定した運用に変更1されました。
さらに、2018年2月28日、「収容に耐え難い傷病者でない限り、原則、送還が可能になるまで収容を継続し送還に努める」との局長指示によって、仮放免の条件がより厳しくなり、裁判中や難民認定申請中であっても仮放免が困難になりました。
1997年から現在までに、全国の収容施設において、24人が亡くなったことが確認されています2。そのうち、2018年4月13日に東日本入国管理センターで亡くなったインド出身の方は、仮放免不許可を原因に自殺をしたと言われています3。
この自殺があった東日本入国管理センターでは、事件以降ハンガーストライキが発生したと言われます4。さらに全国の収容施設においても、長期収容を苦にした被収容者が仮放免を求めてハンガーストライキを行い、その数は、2019年6月から2020年1月末までの約半年で、235人にのぼりました5。このような中で、3年半以上収容され、ハンガーストライキをしていたナイジェリア人が、大村入国管理センターにおいて飢餓死するという事件が2019年6月24日に起きました。
下のグラフは、2009年以降の収容期間を表しています。2018年2月の局長指示の影響で、2018年、2019年は、収容期間が6か月以上の被収容者が約半数を占め、1年6か月以上の割合も増加していることが分かります。
収容施設の中ではハンガーストライキだけでなく、2016年以降自傷行為も増加傾向となっていました6。
2.新型コロナウイルス感染拡大を受けた運用の変更と長期収容の減少
2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の収容施設にも影響を及ぼしました。施設内の感染拡大を防ぐために、2020年4月27日、入管庁は「現下の新型コロナウイルス感染症に係る状況を踏まえた仮放免の運用について、各国の入国制限等により送還による出所が減少することも鑑みて、収容人員抑制のための方策として、仮放免をより積極的に活用すること」とした指示7を出しました。
その結果、多くの仮放免が出され被収容者数は激減し、2021年11月15日時点では全国で134人8となっています。
こうした結果から、収容施設での感染拡大を防ぐためには仮放免が可能であるということが明らかになりました。皮肉なことに、新型コロナウイルス感染拡大の抑制のためになされた運用の変更により、長期収容問題が一時的に改善している状況になっています。
3.難民申請者にとっての収容問題:抜本的な解決を目指して
以上、収容の長期化を防止する鍵となるはずの仮放免制度のあり方が、入管庁の裁量によって変更されてきた状況をみてきました。
送還促進を目的とする仮放免の厳格化や、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた仮放免の積極的な運用から分かるのは、仮放免制度が、被収容者1人1人の事情ではなく、入管の都合を第一に考えて運用されてきたという実態です。
グラフを見てもわかるように、被収容者の中には、出身国での迫害のおそれから、日本での庇護を求めて難民申請を行っている人もいます。
収容されている難民申請者の数は、2017年末時点では605人で、その後減少し、2021年6月末時点では39人でした。難民申請中の被収容者の中には、空港で難民認定申請をしたことで退去強制手続の対象となった人もいます。難民申請者にとって、収容施設外の情報にアクセスできないというのは、難民審査のための証拠提出などに十分に向かうことが困難となることでもあり、不利な状況で難民認定手続きをすることになります。
こうした状況があるにもかかわらず、仮放免の可否について入管独自の判断で運用方針が変更され、そのしわ寄せを被収容者が受けています。
このような課題を解決するためには、以下の3点の改善が求められます。
- 国際人権基準に則り、収容の目的を限定し、収容期間の上限や司法審査を導入すること
- 日本を含む152か国の支持により2018年に採択され、国連憲章の目的及び原則に基礎を置く「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト」では、「収容は最後の手段としてのみ用いられるべき」とされています。
- 在留資格を持たない難民申請者の法的地位の安定を目的とした制度である仮滞在制度を活用し、難民申請者の収容を防ぐこと。
- 仮放免制度を適切に運用することと共に、仮放免者が日本で生きていくことができるような、処遇や権利の改善を図ること
- 仮放免不許可の理由が本人に開示されないことや、仮放免されても就労禁止、所在地の県境を越えるなどの時には必ず許可を取る必要がある上に、国民健康保険に加入できないことで医療アクセスが難しくなり生命の危機に脅かされるなど、様々な生活上支障をきたす問題があります。
仮放免とは
入管庁は、退去強制事由に該当すると疑う理由がある外国人を、入国警備官により発付された収容令書により収容することができます。さらに、退去強制対象者と認められた場合は、入国審査官により発付された退去強制令書により「送還可能のときまで」収容するとしています。
仮放免とは、このように身柄を拘束し収容されている外国人について、本人の申請、もしくは職権により、一定条件を付して一時的に収容を停止して身柄の拘束を解く措置です。仮放免の基準は法律に明記されていません。また、その可否は、地方入国管理局の主任審査官、収容所長の裁量によって決定されます。
送還が可能な時まで無期限に収容を継続することができるため、退去強制令書の発付を受けた外国人にとっては、仮放免制度は長期的な収容から解放される唯一の制度と言えます。
仮放免は、通常1か月から3か月程度の期間が定められ、定期的に入管に出頭し更新をしなければいけません。また、更新できない場合は再収容されてしまいます。仮放免中は居住地域以外への移動や就労は禁止されており、各種行政サービスも受けることができません。
- 運用の変更は、2015年9月15日に出された第五次出入国管理基本計画の「退去強制令書が発付されているにもかかわらず,送還に応じない者の収容が長期化し,さらに,仮放免中の者が増加していることから,これらの者の早期送還に向けた更なる取組が必要」とした計画を反映していると考えられる。法務省「第五次出入国管理基本計画」https://www.moj.go.jp/isa/content/930003136.pdf(2021年12月23日閲覧)[↩]
- 全国難民弁護団連絡会議調べ http://www.jlnr.jp/jlnr/?page_id=3277(2021年12月23日閲覧)[↩]
- 関東弁護士会連合会「入国管理局による外国人収容問題に関する意見書」http://www.kanto-ba.org/declaration/detail/h30op02.html(2021年12月23日閲覧)[↩]
- 同上。[↩]
- 出入国在留管理庁「送還忌避者の実態について」https://www.moj.go.jp/isa/content/930005082.pdf(2021年12月23日閲覧)[↩]
- 移住者と連帯する全国ネットワーク省庁交渉情報[↩]
- 2020年4月27日付け出入国在留管理庁長官「現下の新型コロナウイルス感染症に係る状況を踏まえた仮放免の運用について(指示)」[↩]
- 出入国在留管理庁「難民認定申請,在留許可等の人数について等に対する回答について」http://mizuhoto.org/wp/wp-content/uploads/2021/12/2e3de91f52c709bb1b7fcb24b2b744d8.pdf(2021年12月23日閲覧)[↩]