解説記事・声明等

解説「難民等の保護に関する法律案」

(Updated: 2023.5.15)

《要約》日本の難民認定制度には多くの課題があり、難民保護に特化した法律の必要性が国連などから指摘されています。2021年2月に国会に提出された「難民等の保護に関する法律案」は、難民保護を目指した法律であり、難民を受け入れる社会の基盤づくりにつながるものと考えます。以下の点がポイントとしてあげられます。
※ 2022年5月および2023年5月に再度法案が提出されました。変更点は後述。

(1)入管から独立した、第三者委員会が難民認定を行う
(2)国際基準と乖離していると言われてきた認定基準を改める
(3)審査の透明性や適正性を確保する
(4)国際規範に則り、難民条約以外で保護が必要とされる人(無国籍者含む)も保護対象とする
(5)難民申請者への生活支援を法律に位置付ける

難民申請者の送還の可能性など一部懸念される部分はありますが、国会での活発な議論を期待します。

※ 2022年5月10日、「難民等の保護に関する法律案(第208回参第11号)」が議員立法として再度提出されました。「昨年2月に提出した法案をバージョンアップし」たものと位置付けられています。
本解説記事で紹介したポイントのうち、難民申請者の生活支援については、生活維持費の支給対象の拡大や、難民申請者が在留資格を喪失した場合の対応に関する変更が行われています。また、難民申請者の送還については、送還停止効を例外とする範囲の見直しに関する変更などが行われています。

また、上記とほぼ同内容の法案が、2023年5月9日、再度提出されました(難民等の保護に関する法律案(第211回参第8号))。政府提出の出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案と並行して審議が行われる予定です。

PDF版(2022年5月追記)はこちら

認定NPO法人 難民支援協会

 今国会に「難民等の保護に関する法律案(第204回参第20号)」(以下「本法案」)が議員立法として提出されています。本法案は、現行の「出入国管理及び難民認定法」(以下「入管法」)に含まれている難民認定に関する規定を独立させ、難民等の権利利益の保護や国際社会の取組に寄与することを目的としたものです。

 難民保護のよりどころとなる法律の制定は欠かせないものと支援をする中で感じ、長年求めてきた立場から、当会では本法案を重要なものと考えます。以下、本法案の要点を現行制度の問題点と照らし合わせて解説します。

(これまでの【難民保護のあり方に関する主な提言】は文末よりご覧ください)

 

1.難民保護を目的とする法律制定の意義

 本法案は、難民の権利を保障することや、難民問題解決のための国際社会の取組に寄与することを法律の目的に掲げています(第1条)。

 現行の入管法は難民保護を目的として明記しておらず(入管法第1条)、本来難民として認められるべき人が認められず、難民や難民申請者の権利が十分に保障されない状況が続いています。具体的には、難民認定制度が開始された1982年以降、約8万5,000人が難民申請を行っていますが、難民認定数は841人に留まります 1 。この状況に対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「日本は庇護率が特に低いという点で際立っており(中略)1%を切る 2 」「難民認定に特化した法律があればよい 3 」といった指摘を行ってきました。また、2011年には包括的な庇護制度の確立を求めた国会決議 4 が全会一致で採択されています。

 難民保護を目的とした法律の制定は、これらの指摘に対応し、難民が安心して暮らすための社会の基盤づくりにつながるものと考えます。 

2.本法案で注目すべき点

(1)「難民等保護委員会」の創設:難民認定プロセスの独立性・専門性の確保

 本法案では、難民等の認定(第3条)やそのための調査(第28条)などを行うための機関として、法務省の外局に難民等保護委員会を新設する(第31条)としています。同委員会の委員は、難民保護に関する学識経験者や実務経験者などが務め(第35条)、職権行使における独立性が定められています(第34条)。

 現行制度では、難民の認定は法務大臣が行い、そのための調査は出入国在留管理庁が担っています。しかし、出入国管理と難民認定は、全く異なる目的や性格をもつ業務であり、同一機関が担うことの矛盾が、支援団体や弁護士などから指摘されています 5 。難民事件を扱う弁護士による調査 6 では、難民認定手続きに関わる職員が、十分な知識や経験を持たない事例が報告されました。また、出入国管理を難民保護に優先させる事例 7 や、難民認定が政治的な判断から独立していないことを示唆する記述 8 も確認されています。加えて、UNHCRは「難民を専門的に扱う部局の設立 9 」を求め、政府の有識者会議でも、「難民認定業務の専門性・独立性をより高めるため 10 」の組織のあり方に関する検討が求められています。

 独立した組織の創設および専門性をもつ委員による判断により、難民保護の理念に沿った適切な判断が行われることが期待されます。

(2)難民等認定基準の策定:国際基準に沿った透明性ある難民認定の実現

 本法案では、難民条約が定める難民や、補完的保護対象者(後述)、無国籍者を保護することとし(第2条)、その認定の際の基準を、UNHCRなどの見解を踏まえて作成・公開するとしています(第5条)。また、難民等の認定をしない場合は、その理由を書面で通知することを明示しています(第3条第4項)。

 UNHCRは、難民条約の規定の適用を監督する責務をもち 11 、難民の定義に関して、様々な見解を示しています。例えば、1979年に作成された「難民認定基準ハンドブック 12 」は、難民条約における難民の定義や手続き要件について、包括的な解釈を行い、多くの国の難民認定手続きで活用されています。また、女性の権利や性的マイノリティといった、難民条約起草時には想定されていなかった迫害の背景について、時代の変化に応じた解釈を示してきました 13 

 しかし、現行の難民認定制度においては、こうした国際基準に沿った審査が行われているとは言えません。例えば、難民の定義の一要素である「迫害」について、「難民認定基準ハンドブック」が定める、重大な人権侵害や累積する差別といった要素は含まない解釈をしています 14 。また、迫害主体から特定(個別把握)されていることが、迫害を受ける「おそれ」の条件であるかのように考えられていますが、これは難民条約の趣旨に合わない誤った解釈です 15 

 そもそも、政府は難民認定に関する基準を公開しておらず、どのような解釈を行っているか、裁判での国の主張などから断片的にしか知ることができません。また、難民申請者本人に対してであっても、認定・不認定の理由は十分に示されません。国際基準に沿った認定基準の策定・公開により、保護対象の適正化や透明性・客観性の確保が期待されます。

(3)難民認定手続きの改善:公平性・透明性が担保された難民認定手続きの実現

 本法案では、難民認定の判断にあたり、公正・中立な調査を行い、申請者の心理的な負担が過重なものにならないよう配慮する(第28条第2項)としています。また、調査官との面接について、代理人の参加(第28条第4項)や、UNHCRの職員の立ち会い(第28条第5項)を認め、録音・録画を行わなければならないとしています(第28条第6項)。

 現行の難民認定制度では、一次審査の面接において、代理人の同席は認められておらず、録音・録画も実施されていません 16 。弁護士による調査 17 では、職員による不適切な言動が多数報告されています。過去には入管職員がある難民申請者の出身国に行き、申請者に関する情報を当局に提供するという、公正・中立に反する調査が行われた事例 18 もあります。

 本法案には、標準処理期間の設定(第29条)や、審査の進行状況等に関する申請者への情報提供(第30条)に関する規定も設けられています。難民認定手続きの具体的な方法を法律で定めることにより、公平性や透明性の担保、難民申請者に寄り添った審査の実施が期待されます。

(4)補完的保護(難民条約以外の国際条約に基づく保護)の創設:国際規範に則った適切な保護の実現

 本法案では、難民条約が定める難民に加えて、補完的保護対象者および無国籍者を保護対象としています(第2条)。このうち、補完的保護については、拷問等禁止条約や自由権規約といった国際人権法に基づく保護や、戦争・内乱からの保護が含まれるとしています(第2条第1項第4号)。

 補完的保護とは、難民条約上の難民には該当しないが国際的な保護を必要とする者を保護する制度です。特に、拷問等禁止条約や自由権規約といった国際人権法が禁止する取扱いや、紛争や無差別暴力を受けるおそれがある者を保護する枠組みとして、各国で導入されています 19 

 現行の入管法には、難民とは認定されなかったものの、人道的な配慮を理由に在留を認める仕組みがありますが、法務大臣による裁量的な決定であり、保護対象は明確にされていません。また、国際人権法に則った保護を行う制度として位置付けられていません。本法案における補完的保護は、2014年の政府の有識者会議による提言 20 に沿ったものであり、国際規範に則った保護の実現が期待されます。

(5)難民申請者の生活保障・法的地位の改善:難民申請者が安心して生きるための制度の実現

 本法案では、難民や難民申請者への生活支援に関して、国が責任をもって施策を策定・実施し、法制・財政上の措置を講ずる(第52条)としています。また、在留資格を持たない難民申請者の滞在を仮に認める制度(仮滞在許可制度、入管法第61条の2の4)について、不許可とされる事由を一部削除(第17条)しています。

 現行の入管法には、難民申請者への生活支援に関する規定がありません。外務省が所管する「難民認定申請者保護事業」(保護費)を利用することができますが、法的根拠はなく、対象は限定されており 21 、平均約4年4カ月 22 にわたる審査期間中の最低限の生活を保障するのに十分な内容とはいえません(生活費1,600円/日、住居費単身4万円/月、医療費実費)。また、2009年には予算不足を理由に、受給者の約半数が保護費を打ち切られる事態も発生しており 23 、難民申請者の生活が保障されているとはいえない状況です。

 本法案は、難民と難民申請者を一括して生活支援の対象として明確に定めており、「難民は滞在国やUNHCRによる難民認定の効力によって難民となるのではなく、その者が難民であるから難民と認定される 24 」という難民認定の基本的な理解に沿った内容と言えます。これらの規定により、難民申請者が審査結果を待っている間、困窮に陥ることのない仕組みが法的に保障されると考えます。

 また、現行の難民認定制度では、仮滞在許可制度が十分に活用されておらず 25 、難民申請者が入管収容施設で「第二の迫害」ともいえる状況を経験したり、仮放免という自由や権利を制約された状態におかれる要因の一つとなっています。本法案では、現行制度の仮滞在不許可事由のうち、最も多く適用されてきた「上陸日等から6月経過後の申請であることが明らかであるとき」や、基準が曖昧かつ難民該当性との関連が不明確な「逃亡するおそれがあると疑うに足りる相当の理由があるとき」を削除しており、在留資格を持たない難民申請者の法的地位を安定化させるという、制度本来の目的に沿った運用が期待されます。

3.本法案で懸念される点:難民申請者の送還の可能性

 本法案では、難民申請者の一部に関して、送還を可能にする規定が設けられています。難民や難民申請者の送還を禁止する規定(ノン・ルフールマン原則 26 )は、難民保護の理念の根幹をなす原則であり、現行の入管法においてその例外は認められていません(入管法第61条の2の6第3項)。しかし、本法案では、在留資格をもたない難民申請者について、原則送還を停止しつつ、その例外として、大きく分けて2つのグループを定めており(第20条第3項)、それぞれ下記の点が懸念されます。

 第一に、入管法が定める退去強制事由の一部(入管法第24条第3号の2、第3号の3)に該当する者について、難民申請回数に関係なく、送還停止効の例外としています。しかし、UNHCRは、初めて難民申請を行った者の送還停止効の解除について、「とりわけ深刻に懸念される 27 」と述べています。難民条約はノン・ルフールマン原則の例外を一部認めていますが 28 、その適用は「制限的」かつ「相当の理由に基づいて(中略)証拠によって裏付けられなければならない 29 」とされています。しかし、本法案には、例外規定の適用に関する審査や、不服の申立てに関する規定はありません。また、退去強制事由への該当性を理由に難民保護の根幹をなす原則を侵害することは、出入国管理と難民認定の独立性を目指す本法案の趣旨に反するものであり、見直されるべきと考えます。

 第二に、複数回申請者について、仮滞在が許可されず、同一の事情に基づく申請であると難民等保護委員会が認めた者について、送還停止効の例外としています。しかし、「同一の事情に基づく申請」との判断に関して、UNHCRが求める不服申立てやその間の送還停止といった「効果的な救済措置 29 」は設けられていません。万が一誤った判断により難民申請者が危険な国に送還されることがないよう、「効果的な救済」に関する規定を明文化するといった対応が求められます。

4.最後に

 本法案と合わせて提出された「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(第204回参第21号)」には、収容期間の上限や、収容に関する司法審査の導入など、難民申請者を含む、外国人の権利保障の観点から注目すべき規定が含まれてます。

 日本が難民条約に加入してから40年が経ちますが、難民を受け入れ、ともに生きる社会の実現は道半ばです。本法案に関する国会での活発な議論、そして、難民保護のよりどころになる法制度の確立を求めます。

 

【難民保護のあり方に関する主な提言】

 その他、各年の難民認定者数等の発表に関するコメント、出入国(在留)管理基本計画に関するコメント、「収容・送還に関する専門部会」報告書に関するコメント、入管法改正案に関する声明等を参照(https://www.refugee.or.jp/report/refugee/)。

 

以上

 

※ リンク先におけるURL変更により、一部URL修正(2022年1月)

  1. 出入国在留管理庁「我が国における難民庇護の状況等[]
  2. UNHCR “Global Trends: Forced Displacement in 2017”より仮訳。[]
  3. 西日本新聞「日本の低難民認定率に懸念[]
  4. 第179回国会衆議院決議第2号(2011年11月17日)、参議院決議第1号(2011年11月21日)[]
  5. 難民支援協会「難民支援協会が考える難民保護のあり方」、日本弁護士連合会「難民認定制度及び難民認定申請者等の地位に関する提言」など。[]
  6. 全国難民弁護団連絡会議「難民調査官の資質、技能、知識や態度が問題となった事例[]
  7. 難民研究フォーラム「「名古屋チャーター便送還事件」の概要[]
  8. 全国難民弁護団連絡会議「日本の難民認定の問題に関する資料」 内「外交的な配慮」。また、難民条約加入時の国会審議で、政府委員は「亡命事案の取り扱いにつきましては(中略)人権の尊重とわが国の利益との調和を考慮の上対処してきたところございますが、この方針は、わが国が難民条約を締結しても変える必要はないと考えております」と延べている(「第94回国会参議院法務委員会会議録第11号」大鷹政府委員による発言)。[]
  9. UNHCR「日本と世界における難民・国内避難民・無国籍者に関する問題について(日本への提案):更新版[]
  10. 第7次出入国管理政策懇談会 報告書「今後の出入国在留管理行政の在り方[]
  11. 国際連合難民高等弁務官事務所規程」8(a)[]
  12. UNHCR「難民認定基準ハンドブック[]
  13. UNHCR「国際的保護に関するガイドライン1」(ジェンダー)(2002年)、「国際的保護に関するガイドライン2」(特定の社会的集団の構成員であること)(2002年)、「国際的保護に関するガイドライン9」(性的指向および/またはジェンダー・アイデンティティ)(2012年)など。[]
  14. UNHCRによる「迫害」解釈は、前掲注12パラグラフ51-53参照。日本政府による解釈は、東京地判1989年7月5日、東京地判2020年3月10日など参照。[]
  15. UNHCRによる「迫害を受けるおそれ」の解釈は、前掲注12パラグラフ43参照。日本政府による解釈は、東京地判2019年9月17日など。[]
  16. 難民研究フォーラム「難民認定申請者に対する面接の実施方法についてが示す通り、各国では面接における代理人の同席や録音・録画が認められている。[]
  17. 関東弁護士連合会「難民認定手続の運用に関する調査報告書[]
  18. 日本弁護士連合会は、この件について「申立人らの秘密保持権を侵害し、申立人及びその家族等の生命・身体等の安全・自由を侵害するおそれを生じさせた」とし、法務大臣に対して警告を行っている。日本弁護士連合会「警告書」より。[]
  19. 難民研究フォーラム 「補完的保護に関する国際社会の取り組み[]
  20. 第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)[]
  21. 難民事業本部「難民認定申請者に対する支援(案内)[]
  22. 出入国在留管理庁「令和2年における難民認定者数等について[]
  23. 難民支援協会「難民支援協会と、日本の難民の10年:第5回 難民「保護費切り」と緊急キャンペーン:市民が動かす社会[]
  24. UNHCR「難民認定[]
  25. 2020年に許否が判断された440人のうち、許可されたのは15人のみ。前掲注22より。[]
  26. 難民条約第33条第1項「締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のためにその生命又は事由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはならない」。その他、自由権規約や拷問等禁止条約などにより、ノン・ルフールマン原則が定められている。[]
  27. UNHCR「第7次出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」(専門部会)の提言に基づき第204回国会(2021年)に提出された出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案に関するUNHCRの見解より。この見解は本法案に対するものではないが、送還停止効などに関するUNHCRの一般的な解釈を示しており、本法案を評価する上でも参照されるべきと考える。[]
  28. 難民条約第33条第2項「締約国にいる難民であって、当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者は、1の規定による利益の享受を要求することができない」[]
  29. 前掲注27。[][]