※2024年4月に保護費の支給額が変更になったことに伴い、金額等の記載を修正しました。詳細は文末を確認ください。
「難民申請希望・宿泊先希望」
「〇Xゲストハウス 8/2-5まで滞在・食料希望」
「ホテル〇X 本日チェックアウト・ネットカフェ要手配」
これらは、難民支援協会(JAR)の相談者予約一覧のメモです。JARの現場には、世界約70か国から逃れてきた難民の方々からさまざまな相談が日々寄せられます。「難民として逃れてきた。助けてほしい」という相談だけではありません。多くの方は「今日泊まる場所がない、食事を取りたい」と命や健康が脅かされるレベルの相談事も抱えています。
JARが支援活動を通じて把握する限り1、来日した難民の生活困窮は難民申請者の急増などを背景に2010年代ごろから年々深刻化していきました。2020年の新型コロナウイルスの感染症の拡大により新規来日の相談者は一気に減りましたが、2022年秋からの入国制限緩和により状況は急変。この間、ひと月約600人の方がJAR事務所を訪れています。
現在、JARの支援活動は限界に近い状態です。他の難民支援団体、生活困窮者支援団体、宗教施設などさまざまな方々と連携や相談をしながら、なんとか難民申請者の生存を守るために奔走しています。友人や隣人として難民を支えている市民の存在も欠かせません。
命を守るために逃れてきたにもかかわらず、なぜ、このような事態に陥ってしまうのでしょうか。本記事では、難民申請者の生存権(健康で文化的な最低限の生活を営む権利)について、特に、難民申請者のための公的な生活支援金「保護費」をめぐる現状と課題について考えます。
難民とは、紛争や人権侵害から住み慣れた故郷を追われ、逃れざるを得ない人びとです。日常生活を失い、家族や大切な人と別れ、やっとたどり着いた日本では言葉もわからず知り合いもいません。逃れる先が日本だったのは偶然ビザが下りたからで、日本について知っているのは、先進国で安全な国というイメージぐらいです。ほとんどの方が難民受け入れの厳しさなどを知らずに逃れてきます。そして直面するのは、衣食住すらままならない現実です。そういった状況が、多くの難民の方々を精神的に追い込んでいます。出口の見えない日々を生きる当事者の気持ちを想像しながら記事を読み進めていただけたらと思います。
難民申請者の権利や社会保障のあり方は世界各国それぞれですが、各国と比較しても、これほど公的支援が欠如し、実質的に生存権を保障していない日本の現状は深刻と言えるでしょう。本記事が、難民条約に加入し、国際社会の一員として難民問題に向き合う責任がある日本としてどのようなあり方を目指すべきかを考える機会になれば幸いです。
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1. 難民申請者への保護費とは
生活困窮が認められた難民申請者への政府による公的支援2(難民申請者に対する保護措置・以下「保護費」という)は、インドシナ難民受け入れ後、1981年に日本が難民条約に加入したことがきっかけで1983年から実施が開始されました。業務は、政府(外務省)からの委託で、財団法人アジア福祉教育財団の難民事業本部(RHQ)が実施しています。
保護費には、生活費(2,400円/日・ただし同一世帯の2人目以上の大人は1,600円、12歳未満は1,200円/日)、住居費(単身:4万円/月、4人家族:6万円/月が上限)、医療費(立替払い)があります3。来日直後で就労許可も住まいもなく、生活が困窮する難⺠申請者にとって、唯一の公的⽀援であり、セーフティーネットです。しかし、上の図で示す通り、保護費が支給されるまでの待期期間が長く(詳細は3-2)、その間にホームレスに陥ってしまう人がいるという深刻な課題があります。
前提として、難民申請者は難民認定の結果が出るまでの期間、就労して自活することが想定されています4。よって、保護費は来日直後から就労資格が付与されるまでの限られた期間の支援と位置づけられています5。難民認定手続きは数年かかる(平均4年弱・2022年6)ため、大半の人は就労許可を得たら自活に向けて仕事を探します。難民の方からも、できれば支援に頼りたくない、働き自立したいという声は多数聞きます。ただし、就労資格を得ても、日本語や文化的な壁などから仕事に就くことは簡単ではありません。また、迫害の経験からトラウマを負っている人や、母子世帯、単身の未成年など脆弱性の高い人たちにとっては就職はさらに困難です。よって、就労が難しい人に対しては、支給を継続することも必要です。
そういった状況が、2018年の難民認定制度の運用見直しにより大きく変わりました7。一部の初回難民申請者と大半の再申請者に在留資格が与えられなくなり、以前は認められていた就労も不可となるなどの変更でした。
政府(法務省)は、「濫用・誤用的な難民認定申請を抑制するため」という立場でしたが、難民が難民として認められない制度の改善が置き去りにされ、難民の保護(助ける)ではなく、管理や排除がより強化されることになりました。難民申請者の生存をさらに脅かすことにつながった運用変更の影響は現在も続いています。
2. 人権と外国人の関係
本題に入る前に、人権と外国人(外国籍者)8の関係について整理します。
私たちが安心して当たり前の生活を送るためには、人権の保障が重要です。人権は「義務」とセットの概念ではありません。人権は誰もが生まれながらにしてもっており、誰からも奪われることのない権利で、国はそれを保障する責任があります。しかし、日本では出入国在留管理庁(入管庁)の収容施設における外国人の死亡や困窮などに対して「かわいそうだけれど仕方がない」、「在留資格がなかったから自業自得」、「日本に外国人まで助ける余裕などない」のような外国人の人権軽視の考え方を聞くことが度々あります。
さまざまな権利の総称である人権の中でも、生存権は人間が人間らしく生きていくために欠かせない重要な権利と位置づけられています。しかし、参政権などと並び生存権は、外国人に保障されない人権の一つと言われることもあります。それは、生存権を保障する責任はその人の所属する国家であるという考え方によるものです。
現実には、所属する国籍国が生活をする国ではない人(定住外国人)、所属する国籍国がない人(無国籍者)、国籍国から追われ国籍国に帰れない人(難民)もいます。そうした実態に即して、国際法(世界人権宣言や国際人権規約)においては、生存権は必ずしも国籍に紐づくものではなく、社会の一員に対して保障されるべきという考え方が主流となりつつあり、近年では、その保障は国(締約国)の義務であると考えられています9。
3. 保護費の課題
保護費の課題は、1 法的根拠がない、2 受給までの長い待期期間、3 支給額が不十分、4 受給できる人は一部のみ、5 圧倒的に足りない住居支援、6 国籍間の差などがあります。以下、個別に説明します。
3‐1 法的根拠がない
まず、難民申請者への生活保障に関する法的根拠(根拠法令)がないことが大きな課題です。保護費は、1981年の難民条約加入の翌年、外務省が行政改善のための勧告10(行政監察)を受けて、支給を開始したという経緯があります。つまり、保護費支給に関して、現在に至るまで法律的根拠がないままに行政措置が行われてきました。
法的根拠がないことの問題について、生活保護を規定する「生活保護法」と比較してみましょう。生活保護法には、申請に対する本人への通知は「申請のあった日から14日以内」という規定があるため、それに則って実務がなされます。実際、必要な人が十分に生活保護を受給できていないという深刻な問題はありますが、手続きの公正さと透明性を確保し、権利を保障する法律があることは重要です。
国際情勢や各国の出入国管理政策などの影響を受け、毎年、日本での難民申請者数は増減します。難民申請者数の増減に合わせて保護費の予算を調整し、現場の変化に迅速に対応する仕組みが必要です。過去(2009年)には、保護費予算が枯渇し、その支給が打ち切られ、多くの難民申請者が路頭に迷う事態が生じました11。また、保護費支給の手続き遅延が常態化しており、直近では半年以上かかることもあります。こういった問題が放置されつづけないためには、難民申請者の「保護費」を保障する根拠法は不可欠です。
さらに、難民申請者は、保護費の手続きに対して不服を申し立てる(審査請求)権利がありません。本来であれば、行政不服審査法に基づき認められる権利ですが、保護費は難民(外国人)の権利ではなく行政措置(行政の判断で行う対処のこと)であるため、行政不服審査法が適用されません。なお、残念ながら、根拠法がある生活保護についても、外国人は準用という扱い(本来は「国民」ではないので適用対象ではないが準用として恩恵的に生活保護を与えるという考え方)のため、不服申立の対象外となっています12。
3‐2 受給までの長い待期期間
今日明日を生きることが難しい困窮状態にあるにもかかわらず、保護費の申請後、実際に受け取れるまでには、数か月かかります。上のグラフ13が示すように、保護費受給までには長い待期期間がありますが、実態はさらに深刻です。ここでいう待期期間とは、「RHQが保護費の申請を受け付けてから外務省に確認をし、RHQが外務省から支給決定の通知を受けるまでの期間」を指します。下の図で示す「公開された待期期間」にあたります。
しかし、実際には数か月から半年ほどの時間がかかります(下の図の「実際の待期期間」)。例えば、難民申請書類を提出後、保護費申請のために本人がRHQに電話をし「3週間後にまた電話をください」と言われる事例が頻繁にあることをJARでは把握しています。結果として、実際の待期期間が7か月に及んだ人もいます(2023年9月時点)。
保護費支給の遅延について、RHQ側としては、迅速に対応するだけの人手が足りない、通訳の手配に時間がかかるなどの事情があるのではと想像しますが、法律があれば、どのような事態にでも備えられるよう体制を整えるという動きにもつながるのではないでしょうか。残念ながら、現状では、保護費を必要とする難民申請者の事情ではなく、法的根拠がないことも相まって保護費を支給する側(外務省やRHQ)の事情が優先され、手続きの遅延が十分に改善されない状況が続いています。
3‐3 支給額が不十分
支給される生活費は、単身で月約72,000円、4人家族(子ども2人)の場合は約192,000円です14。住居費は、単身で上限4万円、4人家族以上の場合は上限6万円です15。賃貸契約は難民申請者本人の名前で結ばねばならず、敷金礼金などの前金は支給されません。絶対額も少なく、「最低限の生活を保障」する生活保護と比較すると、支給額は86%(都内区および市の場合)です。
日本でゼロから生活を立ち上げるために必要な家電や日用品、寝具、子どもの教育にかかる費用、難民申請手続き中にかかる費用(入管出頭のための交通費や在留資格更新代など)もすべて、保護費の中で賄わなければなりません。近年の物価や光熱費高騰の影響で難民申請者の生活もますます苦しくなっています。医療費については立替払いのため、現金を工面できない場合は受診を控え、症状を悪化させてしまう人もいます。
また、保護費だけで最低限の生活を営むことが難しいにもかかわらず、政府(外務省)は保護費以外の収入を原則認めていません。つまり、保護費以外に難民申請者でも使える給付金(児童扶養手当など)があったとしても、多くの場合それが収入とみなされ、保護費が減額されてしまうのです。翌月の保護費支給までに持ち金が尽きないよう、食費を切り詰め1日1食にしたり、 交通費を工面できないため外出を控えるなど、なんとか生きていくためのやりくりをしている人が少なくありません。保護費の額自体が最低限の生活を維持するには不十分であり、政府が収入を認めるか、保護費の額を増額するかしない限り、難民申請者が最低限の生活から抜け出すことはできません。
3‐4 受給できる人は一部のみ
難民申請者にとって生活を支える唯一の公的支援であるにもかかわらず、2010年以降、保護費を受給できる人は原則初回の難民申請者のみとなっています16。日本の難民認定制度には多くの課題があり、難民認定を得た人の中でも約7%は再申請で認められています17。つまり、再申請を選ばざるを得ない制度的課題がある中で、再申請者の受給を制限することは深刻な問題です。代わりに、就労資格が得られればよいのですが、働くことも許されず、合法的に暮らすために必要な在留資格まで制限され、生きるすべを全て奪われてしまう難民申請者もいます。
次に、実際にどれだけの人が保護費を受給しているのかを見てみましょう。以下2つ目のグラフが示すように、ここ数年では年間の難民申請者数に対して、保護費の受給者数は1割以下にとどまります18。
実は、RHQへの保護費申請者のうち多くの人は受給ができています19。この点だけをみるとニーズはほぼ満たされていると言えなくもないのですが、JARは、そもそも保護費の情報を知らない人が多く、必要な人に届けられていないのではと考えています。難民申請書の提出時に入管から情報提供はなく、JARのような支援団体につながらなければ、情報にアクセスすることすら難しい状況です。実際に、JARの相談者の大半は保護費のニーズがあり、その申請をしています。
なお、JARは難民申請者の生活実態に関して全体像を把握しているわけではありません。保護費の受給対象でなかったり、受給ができていない人たちは、日本に暮らす同国人や宗教でつながるコミュニティからのサポート、日本で出会った個人からの支援などでなんとか日々を生きているのではないかと推測します。
3‐5 圧倒的に足りない住居支援
最低限の生活を営む上で欠かせないのが住居です。政府(外務省)は、2003年に難民申請者に対してシェルター(緊急簡易宿泊施設)の提供を開始し、緊急で住居が必要な人が利用できる仕組みを持っています。通称、エスフラ(ESFRA:Emergency Shelter for Refugee Applicants)20と呼ばれるこのシェルターは、保護費支給の対象となった人の中から、RHQが緊急性を判断し、手配をします。本人のニーズがあったとしても、自ら申請をすることはできません。しかし、必ずしも母子世帯など脆弱性の高い人が対象になるわけではなく、客観的な入居基準は明らかではありません。
また、上のグラフが示す通り、長年、エスフラの提供数が非常に少なく、仕組みがあるにもかかわらず必要な人に提供できていないことや、緊急の手配が必要にもかかわらず迅速な対応に欠けるという課題もあります。2003年のエスフラ開設当初は、緊急性があれば即日入居可能という原則のもと運営がなされていました21。また、明らかになっている実績によると、2010年代前半は一定程度エスフラの提供がされていました(2010年=41人、2011年=48人、2012年=24人)22。しかし、2013年以降、一時は提供がゼロとなるほど数が減っています。2022年では、RHQのエスフラ提供は25人、JARは前年の10倍となる223人に手配しました。政府がやるべき難民申請者のセーフティーネットの確保を、民間の支援団体が肩代わりしているという実態が歴然とわかります。
3‐6 国籍間の差
最後に、来日直後の難民への支援に関する国籍間の差について説明します。
難民受け入れには、自力で来日し難民認定を目指す人たち以外に、政府主導で計画的に受け入れる第三国定住受け入れや、情勢不安による出身国別の緊急避難措置で在留を認めるなどさまざまな形があります。
世界では故郷を追われる人が1億人を超える中で、難民条約に基づいた受け入れ(申請を経て日本政府が認定し、受け入れる)だけでは対応できない状況が続いています。多様な形での受け入れを拡大していくことは世界の潮流であり、一人でも多くの難民に安心して生きられる先を提供するという意味で重要です。しかし、日本では受け入れの形によって、かなりの支援の差が生じています。
例えば、身元引受先のないウクライナ避難民と比較してみましょう。2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受け、日本政府は身元引受先のないウクライナ避難民(283人・2023.9.15現在)を自らの責任で受け入れています23。上の表が示す通り、政府は来日直後から一時滞在施設や生活費の提供をしています。一般的に、難民受け入れにおいては入国直後に充実した支援を行うことで自立に向けてスムーズに移行できると考えられています。この支援が十分で適切かは議論の余地がありますが、必要な支援とは言えるでしょう。
難民申請者には、そういった初動の支援が非常に限定的です。自立に向けた支援どころか、最低限の生活を維持することすら厳しい支援内容です。
個別に事情は異なるため安易に国籍などで括ることはできませんが、自力で逃れてきた難民(難民申請者)の受け入れ態勢の脆弱さが際立っていることは明らかです。どのような形であれ、日本に保護を求めてきた人たちが、来日後に適切な支援を受け、自立に向けて一歩を踏み出す仕組みがあることが本来あるべき姿です。
4. 各国事例から考える目指すべき姿
以下では、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデンにおける難民申請者への公的支援制度について、日本でも取り入れたい特徴を中心に紹介します24。日本の難民受け入れはこれまで国連や海外メディアから多くの批判がされてきました25が、課題がない国はありません。しかし、受け入れの実践を通じて試行錯誤を重ね、制度改善を目指してきた諸外国の取り組みから学べることは大いにあります。
基本データとして、各国の難民申請者数と支援の受給者数を記載しました。まずは、日本とは桁違いの受給者数の規模に注目ください。具体的な取り組みでは、入国直後にホームレスに陥らないことを前提とした制度(各国)、セーフティーネットの穴ができないよう支給決定前から暫定的な支援を行う体制(イギリス)、難民申請の結果まで一定期間かかる場合には就労を可能にし、支援に頼らない選択肢を作る(フランス)、在留資格の有無にかかわらず法律で最低限の生活保障の受給権を保障する(ドイツ)など、日本でも参考にしたい事例です。
難民申請者への各国の公的支援
*制度は随時更新されます。最新情報は1次情報をご確認ください。
イギリス
基本データ
・難民申請者 16万7,289人(2022末)
・住居、食事、生活費のいずか又は複数を受給 11万7,450人(2023.6末)
ーー
- 担当機関は内務省(The Home Office)。根拠法は、Immigration and Asylum Act 1999(1999年移民・難民庇護法)。基本となる2種類の支援(Section 98とSection 95)がある。
- Section 95の支援は、安全な住居がないなど経済的困窮者が対象。食事付き無償施設を提供。106,607人が受給(2023.6末)。目安として3~4週間滞在。施設の空きがない場合は、ホステルなどを手配。支給期間は、難民申請手続き中、および、認定の場合はその後28日間、不認定の場合はその後21日間。
- Section 95に申請中で、支給を受けるまでの待期期間に困窮してしまう人は、一時的な緊急支援であるSection 98の申請ができる。Section 95の結果が出たら支援は終了。6,735人が受給(2023.6末)。
- 加えて、個別審査の結果、追加支援が必要と判断された場合はSection 96(2)の支援もある。
- 難民申請から1年以上で、就労許可の申請が可能。ただし、就労可能な職種は限られている。公的医療保険制度(NHS)に加入可能。保険料は免除。
出典:
英国政府, “Asylum support: What you’ll get – GOV.UK”
Refugee Council, “Top facts from the latest statistics on refugees and people seeking asylum”
London City Hall, “Asylum accommodation and support”
UNHCR, UNHCR Refugee Data Finder
フランス
基本データ
・難民申請者 14万2,940人(2022末)
・生活費受給者 11万1,901人(2021末)
・住居受給者 10万8,814人(2022末)
ーー
- 担当機関はフランス移民・統合局(the French Office for Immigration and Integration:OFII)。根拠法はCode of Entry and Residence of Foreigners and of the Right to Asylum。
- 庇護希望者手当(The asylum seeker’s allowande: ADA)として生活費と住居の提供がある。18歳以上で、フランスの生活保護の受給可能な収入以下であるなどの条件を満たせば、難民申請中は受給可能。
- 住居は以下の通り。庇護申請者受入施設(4万9,242人入居・2022年末)。庇護申請者緊急受入施設(5万2,950人・2022年末)。
- さらに、収容施設と行政審査を兼ねた施設(6,622人・2022年末)もある。
- フランス難民・無国籍者保護局(OFPRA)が6か月以内に難民申請決定を下さなかった場合は就労可能。就労が認められた場合は職業訓練を受けることも可能。
- 原則としてフランスに到着した日からすべての給付金(ADAが支給されるため生活保護は対象外)や社会福祉の恩恵を遡及的に受けることができる。
- 国の健康保険は、医療保険制度(Puma)と補完的医療保険(CSS)があり、収入状況に応じて加入可能。
出典:
フランス移民・統合局, “Asylum application – Ofii”
The Asylum Information Database (AIDA), “Country Report: France”
ドイツ
基本データ
・難民申請者 26万1,019人(2022末)
・生活費受給者 約39万9,000人(2021末)
・住居提供者 39万8,585人(2021末)
ーー
- 担当機関は連邦移民難民庁(Federal Office for Migration and Refugees:BAMF)。根拠法は連邦社会扶助法ほか。憲法で庇護を求める権利が保障されている。
- 連邦社会扶助法(1961)で滞在中は在留資格の有無問わず最低生活保障の受給権を認める。
- 難民申請の結果がでるまで原則政府が提供する施設に居住。州ごとに受け入れる申請者の割合が決まっている。
- 難民申請から18か月後までは3食付の一次施設(Inicial reception center)での滞在が義務。その後、地方自治体やNGOが運営する施設に移る。
- 一次施設滞在中は原則就労不可。ただし、滞在許可がある場合は入居9か月後から就労可能(「安全な第三国出身者」除く)。
- 難民申請者が受給できる額は一般の社会保障の75〜82%ほど。
出典:
The Asylum Information Database (AIDA), “Country Report: Germany”
Destatis, “Press Benefits for asylum seekers, 2021: number of people entitled to benefits up 4.3%”
UNHCR, UNHCR Refugee Data Finder
スウェーデン
基本データ
・難⺠申請者 1万4,469人(2022年末)
・住居提供者 8,542人(2022年末)
ーー
- 担当機関は移民庁(the Swedish Migration Agency)。根拠法はLaw on the Reception of Asylum Seekers(LMA)。
- 難民申請者は政府提供か民間の施設に入居ができる。単身者はルームシェア。性的少数者への配慮あり。
- 生活費は一般向けの生活保護費の46%。
- 難民申請後、即時就労許可の申請が可能。
- 医療費は減額。半月で400クローナ(約5,200円)を超える場合は補助あり。
出典:
The Asylum Information Database (AIDA), “Country Report: Sweden”
UNHCR, UNHCR Refugee Data Finder
5. さいごにー難民申請者へ尊厳と安心を
難民申請者にとって、JARからのわずかな支援に頼りながら保護費支給の返事を待ちつづける日々のストレスは相当です。当初は日本語を勉強したいと意欲を持っていた人でも、先が見えない不安定な生活に体も心も崩していきます。
ある難民申請者の言葉です。
「日本に降り立った時はこれで命が助かるとほっとした。しかし、平和な日本でホームレスになるほど追い詰められるとは想像すらしていなかった。今は働けないので、支援がなければ生きていけない。でも、誰かの支援に頼って生活することは望んでいない。支援を乞うことが辛い。1人の人間として自立して生きたい」
日本で難民申請の結果を待つ限り、国籍や在留資格の有無にかかわらず、日々を生きてゆかなくてはなりません。母国に帰れない事情を持つ人たちの生存権を奪い社会から排除することの正当な理由などあるのでしょうか。逆に、適切に支援を受け、働ける人は働き、自立して生活しながら難民申請の結果を待つことで、社会への不利益は生じるのでしょうか。
JARは、政府が難民申請者の唯一の公的支援である保護費を恩恵ではなく権利として認めること、その権利の保障のために責任を持つこと、国籍や在留資格の有無にかかわらず、難民申請者を尊厳ある「人間」として生きていけるよう対応することを、引き続き強く働きかけていきます。
・訂正
▶ 保護費開始の時期について誤りがありました。訂正いたします(2023年11月12日)。
(誤)1981年に日本が難民条約に加入したことがきっかけで翌年から実施が開始
(正)1981年に日本が難民条約に加入したことがきっかけで1983年から実施が開始
▶ 保護費受給者の割合のグラフを訂正しました(2024年1月12日)。
2022年の保護費受給者9%→5%
▶ RHQからの保護費支給額が以下の通り変更になったため、該当本文と注の14と15を訂正しました(2024年4月30日)。
(修正前)生活費:単身で月約48,000円、4人家族(子ども2人)の場合は約168,000円/住居費:単身で上限6万円、4人家族以上の場合は上限8万円。
(修正後)生活費:単身で月約72,000円、4人家族(子ども2人)の場合は約192,000円/住居費:単身で上限4万円、4人家族以上の場合は上限6万円
(修正前)絶対額も少なく、「最低限の生活を保障」する生活保護と比較すると、支給額は約3分の2程度(都内の場合)です。
(修正後)絶対額も少なく、「最低限の生活を保障」する生活保護と比較すると、支給額は86%(都内区および市の場合)です。
- 本記事における難民の状況に関する記述は、すべてJARが支援活動を通じて得た情報や知見に基づく。ほか、外務省人権人道課「業務仕様書」及び難民事業本部「難民認定申請者保護実施要領」参照。[↩]
- RHQ,「難民認定申請者への援助事業」https://www.rhq.gr.jp/support-program/p05/ [↩]
- 外務省人権人道課「業務仕様書 令和6年度 難民等救援業務」より。[↩]
- ただし、在留資格や就労資格が付与されない難民申請者(仮放免者など)は、就労を通じた自立が見込めない状況に置かれている。よって、難民申請の結果が出るまで保護費を受給し続ける人も一部にはいる。[↩]
- 難民認定申請者保護実施要項(p.20)には保護措置終了の事由の1つとして「安定した稼働先の確保又は親族からの送金等により、算定基準額を超える収入があること」が挙げられている。[↩]
- 1次審査の約33.3か月と2次審査(不服申立て)の約13.3か月の合計。
出入国在留管理庁「令和4年における難民認定者数等について」https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/07_00035.html [↩] - 難民支援協会「法務省発表「難民認定制度の適正化のための更なる運用の見直しについて」 に対するコメント」 https://www.refugee.or.jp/report/refugee/2018/01/post_456/ [↩]
- 本記事でいう「外国人」は、観光などで短期間滞在する人たちではなく、一定期間日本に滞在し、定住している外国籍者(無国籍者含む)を意味する。また、本記事は難民申請者に焦点を当てたものだが、日本社会の一員として暮らす多くの「外国人」である外国籍住民の生存権保障についても、取り上げるべき重要な課題である。
詳しくは『外国人の生存権保障 ガイドブック』(明石出版、2022)。[↩] - なお、欧州連合(EU)では、難民申請者に尊厳ある生活水準と条約加盟国の国民と同等な生活状況を確保することが前提となっている。
そもそも、難民は国から認定されて「難民」になるわけではない。難民であるが故に難民と認定されるのであり、難民申請中であっても、保護の対象として考える視点が重要である。「難民認定」の意味合いについて、詳しくは https://www.unhcr.org/jp/rsd 。[↩] - 行政管理庁, 1982年「難民行政監察結果に基づく勧告」[↩]
- 難民支援協会「第5回 難民”保護費切り”と緊急キャンペーン:市民が動かす社会」https://www.refugee.or.jp/10th/10th5/ [↩]
- 生活保護問題対策全国会議(2022)『外国人の生存権保障 ガイドブック』明石出版, p31-33.[↩]
- 全国難民弁護団連絡会議, 2015年~2023年の石橋通宏議員による質問主意書 http://www.jlnr.jp/legislative/index.html [↩]
- 生活費(2,400円/日・ただし同一世帯の2人目以上の大人は1,600円、12歳未満は1,200円)を30日分受給した場合。
単身は、2,400円×30日=72,000円。4人家族は、(2,400円×1人+1,600円×1人+1200円×2人)×30日=192,000円。
保護費の支給額のまとめ、および2023年度と24年度の変化についてはこちらを参照[↩] - 2023年4月に、JARも加盟する難民支援ネットワーク団体「なんみんフォーラム(FRJ)」が外務省との交渉を通じて、家賃の上限を4万円から6万円(単身の場合)に引き上げた。しかし、2024年4月現在、単身は4万円、家族は上限6万円に引き下げられた。[↩]
- 1回目申請の不認定に対する裁判(1審のみ)を行っている再申請者は受給可能。2008年から2009年にかけて生じた予算枯渇の影響を受け、2010年4月から制限が開始された。
(参考)2010年4月1日, 外務省人権人道課長通達「生活に困窮する難民認定申請者等に対する保護措置の見直しについて」[↩] - 2010年から2021年に難民認定された377人のうち、約7%(25人)は再申請者。[↩]
- 難民申請をした年と保護費を受給する年は必ずしも一致せず、統計の区切りも異なる(難民申請数は1月~12月、保護費は4月~3月)ため、難民申請者に対する保護費受給者の割合は目安である。[↩]
- 保護費の申請数と受給数は以下の通り。ただし、申請に対して結果がでる年度は異なるため、受給率などは不明。
2022年度:申請221、受給204
2021年度:申請148、受給250
2020年度:申請311、受給357
2019年度:申請574、受給362(単位:人)
(出典)石橋通宏議員による質問主意書 http://www.jlnr.jp/legislative/index.html [↩] - 政府(外務省)が特定の住居を保持しているのではなく、ニーズに応じて、民間の不動産会社や支援団体と提携し、空き部屋を確保するというのが実態だと思われる。https://www.rhq.gr.jp/support-program/p05/ [↩]
- 寺本信生, UNHCR NEWS NO.32,「難民認定申請者緊急宿泊施設(ESFRA)の現状と課題」,2005, p7。 https://www.unhcr.org/jp/unhcr_news [↩]
- 全国難民弁護団連絡会議, 2016年の石橋通宏議員による質問主意書 http://www.jlnr.jp/legislative/index.html [↩]
- 出入国在留管理庁「ウクライナ避難民の受入れ・ 支援等の状況について」 https://www.moj.go.jp/isa/content/001388202.pdf [↩]
- ここで紹介する情報は、インターネットによる調査で、実態調査に基づいたものではない。実際に、制度と実態の差もあると思われる。
制度は随時更新されるため、記載のある時点での情報である。また、難民申請者への公的支援に加えて、国籍を問わず利用できる社会保障制度の状況など各国の事情は異なるため、制度の優劣をつけることは本記事の目的ではない。[↩] - 難民研究フォーラム「難民・収容・送還に関する、日本政府に対する勧告一覧」 https://refugeestudies.jp/2022/11/post-5084/ [↩]