解説記事・声明等

2021年の難民認定者数等の発表をうけて

2022年5月18日
認定NPO法人 難民支援協会

 2022年5月13日、2021年の難民認定者数等が出入国在留管理庁より発表されました。難民認定者は過去最多の74人となる一方で、難民不認定とされた人の数は1万人を超えており(一次審査・審査請求の合計)、難民として認定されるべき人が認定されない状況が続いています。難民受け入れに対する日本社会の関心の高まりを機に、適切な難民認定を行うための法律や運用の見直しが行われる必要があります。

※出入国在留管理庁発表資料「令和3年における難民認定者数等について


1.2021年の難民認定状況のうち注目すべき点

(1)過去に難民認定申請を行ったことがある申請者(複数回申請者)の増加

複数回申請者数(1,248人)が増加し、申請者の半数以上を占めることとなりました。難民として認定されるべき人が認定されない制度が故に、難民申請を繰り返さざるを得ない状況があります。複数回申請者であっても、保護を必要とする人がいることを認識したうえで、制度のあり方を検討する必要があります。
入管庁発表資料では述べられていませんが、複数回申請によって難民認定や人道配慮による在留許可を受けた人がいることが、これまでの統計1で明らかになっています。また、ミャンマー(248人)のように、新たな事情が発生した国からの複数回申請があることも、大切な点です。
2018年以降減少していた複数回申請者の数が増加に転じたことは、同年の「難民認定制度の更なる運用の見直し2」による就労・在留制限があってもなお、再度の申請をせざるを得ない人がいることを示します。さらに、昨年の通常国会に政府が提出した出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正案には、3回目以降の難民申請者などの送還を可能にする規定が含まれていましたが、難民や難民申請者の送還を禁止する国際法上の原則(ノン・ルフールマン原則)に反するものであり、認められません3

(2)国籍別の難民認定状況に見る課題

難民認定者の国籍として、ミャンマー(32人)、中国(18人)、アフガニスタン(9人)などが挙げられています。2017年以来、ロヒンギャを含め1人も認定されてこなかったミャンマー出身者の認定が増加する一方で、当会の支援対象者4の6割を占めるアフリカ諸国からの認定は6人に留まります。例えば、入管庁発表資料で「世界で難民認定申請者を多く出しているとされる上位5か国」の1つとして紹介され、武力紛争や人権侵害が多発するコンゴ民主共和国5の認定はありませんでした。様々な国や地域から逃れた人を保護するための包括的な制度改善が求められます。
昨年2月のクーデターの発生を受け、「本国情勢を踏まえた在留ミャンマー人への緊急避難措置」が実施されているミャンマー出身者の保護にも課題が見られます。昨年3月末時点で約3,000人が難民認定手続を行っていた中で、難民認定が32人、難民不認定が559人、人道配慮による在留許可が498人という結果は、「審査を迅速に行い…適切に難民認定6」するとの方針や、国際情勢7を踏まえた対応とは言えません。難民として保護するための制度が確立していない中での、国籍別の対応の限界が見られます。
また、人道配慮による在留許可とされた498人の中には、従来よりも不安定な在留資格の付与や就労時間の制限など、「庇護」の実態を伴わない対応が行われた人が含まれることが懸念されます。さらに、在留資格をもたないまま審査の結果を待つ人(昨年12月末時点で192人)もおり、迅速に保護される必要があります。

2.難民認定制度の改善点

難民認定制度の改善の必要について従来より主張してきましたが、2021年の難民認定状況に鑑みても、以下の点を中心に抜本的な制度の改善が必要と考えます。

(1)国際基準に則った認定基準の策定

日本では、国際社会における保護対象の広がりを踏まえない、難民定義の限定的な解釈が行われています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の見解などを反映し、国際基準に則った難民認定基準の策定や見直しが行われるべきです。
難民定義の解釈の課題は、「難民と認定した事例等について8」(以下、事例集)で挙げられている判断のポイントにも見られます。例えば、迫害を受ける「おそれ」を判断するにあたり、「個別具体的な迫害事情」(事例集②事例4、5)を必要以上に求めることは、難民認定の本来のあり方にそぐわず、証拠提出の難しさを考えても、適切ではありません。また、国籍国による申請者への保護を判断するにあたって、「放置、助長するような特別な事情」(事例集③事例1~4、8、9)がなければ十分とすることは、効果的な保護の有無を考慮しない、不適切な基準です。

(2)審査の公平性や透明性の確保

難民申請者本人への情報開示や説明の機会の保障といった、公平性や透明性を確保するための改善が必要です。申請者にとって納得感のある形で保護を実現することは、「前回と同様の主張9」を行う申請への対応にもつながります。
現行制度の課題として、例えば、難民不認定の理由が十分に示されず、自らの主張がどのような根拠に基づいて否定されたのかを申請者自身が知ることができない(「合理的な根拠に基づかない申請者の憶測」(事例集③事例5)とありますが、入管側の「合理的な根拠」をそもそも知り得ない制度となっている)点が挙げられます。また、難民調査官とのインタビューにおいて、申請者にとって不利な証拠に対する説明を行う機会10が保障されていないことや、代理人の同席が認められていない11ことも、公平な審査を行う上での支障であり、見直されるべきです。

(3)審査請求における適正手続保障

審査請求による認定数(9人)は増加しましたが、棄却率は依然として99%を超えており、一次審査の判断に対する効果的な救済を行うための制度として十分に機能しているとはいえません。口頭意見陳述の実施状況(約11%)の改善や、参与員の質の向上や透明性の確保といった「行政不服審査法の改善に向けた検討会」による最終報告を踏まえた制度の見直し12が求められます。また、2016年の行政不服審査法改正の趣旨を「骨抜きにしかねない13」形で行われた入管法における適用除外や読み替え規定も、合わせて見直されるべきです。

(4)難民申請者の生活保障

難民申請を行ってから審査請求の結果がでるまでの平均期間は約4年5か月と、統計が明らかになっている2014年以降で最長となりました。長期化する審査期間を、申請者が安心して暮らすことができるよう、在留資格や就労許可、公的支援へのアクセスといった仕組みの確立がより一層重要です。
しかし、現行制度において、難民申請者は最長でも6か月の在留資格(特定活動)が付与されるのみで、複数回申請者を中心に、在留制限の対象となる人もいます。また、非正規滞在の難民申請者については、仮滞在の許可状況(約4.6%)に大きな改善は見られず、多くが収容や仮放免といった状況におかれています。
難民申請者に対する公的支援として実施されている「難民認定申請者に対する保護措置(保護費)」の内容は生活保護の水準に満たず、複数回申請者は原則対象外とされるなど、難民申請者の暮らしを支えるために十分な制度とは言えません。ウクライナから逃れた人への支援を踏まえつつ、日本に逃れて保護を求める人々を、分け隔てなく公平に支援するための取り組みが求められます。

難民への公的支援

保護費ウクライナ難民への支援
対象生活に困窮する難民申請者(2020年度は357人。2020年の難民申請者は約4,000人)身元引受のない者
生活費
(1日あたり)
1,600円一時滞在施設:1,000円+食事提供
一時滞在施設から出た後:2,400円
住居支援住居費として月4万円(単身世帯)を支給、もしくは難民認定申請者緊急宿泊施設に入居(2020年度の入居者は9人)一時滞在施設の後に、自治体や企業などが提供する住居で生活
その他支援開始まで平均92日(2020年度)
医療費は必要に応じて国が実費を負担
一時滞在施設から出る際、生活必需品購入のための一時金として16万円を支給。
医療費・日本語教育費などは必要に応じて国が実費を負担

難民研究フォーラム「[緊急シンポジウム]日本の難民受け入れ – ウクライナ避難民の受け入れを機に考えること –」 難民支援協会発表資料より。

3.結び:包括的な庇護制度の確立に向けて

庇護数が増加した2021年の難民認定状況に鑑みても、抜本的な制度の改善が必要であることが改めて明確になりました。難民受け入れに向けた社会の関心の高まりや政治的意思を土台とし、難民保護のよりどころなる法律の策定や難民認定を専門的に行う部局の設立といった「包括的な庇護制度14」を確立させることが、今こそ求められます。

  1. 全国難民弁護団連絡会議「統計データ(RSD):初回/複数回申請別の難民認定数等の推移」http://www.jlnr.jp/jlnr/?p=5994(2022年5月17日閲覧)
    []
  2. 出入国在留管理庁「難民認定制度の適正化のための更なる運用の見直しについて」https://www.moj.go.jp/isa/content/930003530.pdf(2022年5月17日閲覧)[]
  3. 入管法改正案の課題について、詳しくは、難民支援協会「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案に対する意見」https://www.refugee.or.jp/report/refugee/2021/02/opinion_imlaw21/ を参照。[]
  4. 2020年度(2019年7月〜2020年6月)は325人に支援を提供。[]
  5. 2016~2020年にかけて120人が申請し、認定されたのは20人。2021年は20人が申請した。全国難民弁護団連絡会議「統計データ(RSD):難民申請者数上位25か国の難民認定申請数及び認定数等の推移 地域別・出身国別(概数)(1982~2020)」http://www.jlnr.jp/jlnr/?p=6955(2022年5月17日閲覧)より。[]
  6. 出入国在留管理庁「本国情勢を踏まえた在留ミャンマー人への緊急避難措置」http://www.jlnr.jp/jlnr/wp-content/uploads/2021/05/%E5%85%A5%E7%AE%A1%E5%BA%81_20210528_%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E6%83%85%E5%8B%A2%E3%82%92%E8%B8%8F%E3%81%BE%E3%81%88%E3%81%9F%E5%9C%A8%E7%95%99%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E4%BA%BA%E3%81%B8%E3%81%AE%E7%B7%8A%E6%80%A5%E9%81%BF%E9%9B%A3%E6%8E%AA%E7%BD%AE.pdf(2022年5月17日閲覧)[]
  7. 2022年5月17日時点で公開されているデータによると、2021年上半期の世界におけるミャンマー出身者の難民認定率は約83%。UNHCR “Refugee Data Finder” https://www.unhcr.org/refugee-statistics/download/ より。[]
  8. 出入国管理在留管理庁「難民と認定した事例等について」https://www.moj.go.jp/isa/content/001372238.pdf(2022年5月17日閲覧)[]
  9. 難民申請時の案件振分けにより、1,196人が「正当な理由なく前回と同様の主張を繰り返している案件」としてC案件に振り分けられている。[]
  10. 例えば、EU共通の規定である庇護手続指令では、申請者へのインタビューにおいて、「申請を立証するために必要な要素について可能な限り完全に述べるために十分な機会」に加えて、「申請者の陳述において、欠落しているかもしれない要素及び/若しくは不一致又は矛盾点について説明する機会」を確保することが定められている(第16条)。[]
  11. 2020年12月の第7次出入国管理政策懇談会による報告書においても、「適正手続保障の観点から、代理人の立会いを認める範囲など、申請者の置かれた立場に配慮した一次審査における適切な事情聴取の在り方を検討する必要がある」とされている。「報告書「今後の出入国在留管理行政の在り方」」https://www.moj.go.jp/isa/content/001334953.pdf(2022年5月17日閲覧)より。[]
  12. 難民支援協会「「行政不服審査法の改善に向けた検討会 中間取りまとめ」に対するパブリックコメントの提出」https://www.refugee.or.jp/wp-content/uploads/2021/11/publiccomment_20211124.pdf[]
  13. 日本弁護士連合会「行政不服審査法改正の趣旨に沿った、難民不服審査制度の正常化を求める会長声明」
    https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2020/200827.html(2022年5月17日閲覧)[]
  14. 「難民の保護と難民問題の解決策への継続的な取り組みに関する決議」(第179回国会衆議院決議第2号(2011年11月17日可決)、参議院決議第1号(2011年11月21日可決))より。なお、2021年及び2022年通常国会提出の議員立法「難民等の保護に関する法律案」について、難民支援協会「解説「難民等の保護に関する法律案」」https://www.refugee.or.jp/report/refugee/2021/06/refugeelaw21/ 参照。また、第7次出入国管理政策懇談会による報告書(前掲注11)では、「難民認定業務の専門性・独立性をより高めるために、その組織の在り方について検討することを求めたい」とされており、その実現に向けた工程の提示が求められる(難民支援協会「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ(案)に対するパブリックコメントの提出」https://www.refugee.or.jp/report/refugee/2022/04/pubcmt220423/ 参照)。[]