外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議は、「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ(案)」を2022年4月13日に発表し、4月24日までパブリックコメントを募集しています。
ロードマップの中で、「共生社会の基盤としての在留管理体制の構築」として難民認定制度に言及されていることから、当会から以下のパブリックコメントを提出しました。
出入国在留管理庁政策課外国人施策推進室御中
外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ(案)に対するパブリックコメントの提出
2022年4月23日
特定非営利活動法人難民支援協会
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ファックス:03-5215-6007
特定非営利活動法人難民支援協会は、「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ(案)」 についての意見募集(パブリックコメント)に対し、以下の意見を申し述べる。
1.はじめに
「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ(案)」(ロードマップ)における具体的な施策の1つに「難民の適正な保護の推進」が挙げられた。日本の難民認定制度には様々な課題があり、本来認定されるべき人を認定することができていない中で、難民認定状況の改善に向けた動きとして、歓迎する。
特に、近年は「難民認定制度の運用の見直し」による難民申請者の処遇悪化や、2021年の通常国会で成立が見送られた「出⼊国管理及び難⺠認定法及び⽇本国との平和条約に基づき⽇本の国籍を離脱した者等の出⼊国管理に関する特例法の⼀部を改正する法律案」(入管法改正案)における送還停止効の例外規定など、難民保護に逆行する動きが目立っていた。
ウクライナ難民の受け入れを機に、難民認定制度のあり方への関心が高まっている状況である。今回のロードマップにおける施策が、より抜本的な改善に向けた足がかりとなることを期待したい。以下、具体的施策の内容について、23年にわたり日本に逃れた難民を支援してきた経験より、意見を述べる。
2.「難民の適正な保護の推進」に関する具体的施策に対する意見
(1)難民の認定に関する具体的施策の位置づけについて
ロードマップでは、「在留管理体制の構築」のための施策の1つとして「難民の適正な保護の推進」が挙げられている。難民認定のための施策を「在留管理体制」の中に位置づけることは、日本に逃れた人の安心を確保し、人としての尊厳を守るという難民認定の本来の目的に矛盾するものであり、見直されるべきである。
(2)難民該当性に関する規範的要素の明確化について
① 難民該当性に関する規範的要素の明確化の内容について
ロードマップにおいて、「難民該当性に関する規範的要素の明確化」が、2022年度中に作成・公表されることが示された。難民該当性に関する規範的要素の明確化の作成にあたっては、2014年の難民認定制度に関する専門部会による「UNHCRが発行する諸文書、国際的な実務先例及び学術研究の成果なども参照しつつ」との提言を踏まえ、日本におけるこれまでの限定的な難民条約の解釈に捉われない内容とするべきである。
その点、2021年7月に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と出入国在留管理庁の間で交換された難民認定制度に関する協力覚書(MOC)において、UNHCRが提示した意見が、難民該当性に関する規範的要素の明確化にどのように反映されるかが定められていない点を懸念する。UNHCRの見解を踏まえた難民該当性に関する規範的要素の明確化により、国際基準に則った難民認定基準が策定されるべきである。
② 難民該当性に関する規範的要素の明確化の活用・検証について
ロードマップでは、難民該当性に関する規範的要素の明確化の後に、「難民のより迅速な認定、判断の透明性の確保」や「更なる明確化の検討」が行われるとされている。
「透明性の確保」にあたっては、難民認定・不認定理由の付記内容の充実が行われることが重要である。また、難民該当性に関する規範的要素の明確化後の措置として、難民該当性に関する規範的要素の明確化を通じて見直された審査基準を踏まえて、難民申請者が新たに証拠を提出する機会が設けられるべきである。さらに、再申請者の多くが、難民認定制度の更なる運用の見直しによる在留制限の影響を受けており、難民該当性に関する規範的要素の明確化後の審査基準との関係で、C案件への該当性が判断されるべきである。
2025年度以降に行われるとされた「検証」や「更なる明確化の検討」は、UNHCRと共同で行われるべきである。また、難民条約の解釈は、人権規範の発展や各国の実務・研究の積み重ねによって変化するものであり、更なる「明確化」ではなく「見直し」とするのが適切である(※)。
※例えば、カナダの性的指向・性自認に・性表現に基づく申請に関するガイドライン( “Proceedings Before the IRB Involving Sexual Orientation, Gender Identity and Expression, and Sex Characteristics” 2017年5月作成、2021年12月改訂)の検証過程について、 “Review of the implementation of the Sexual Orientation and Gender Identity and Expression (SOGIE) Guideline” [https://irb.gc.ca/en/transparency/reviews-audit-evaluations/Pages/sogie-guideline-implementation-review.aspx] を参照。
(3)難民調査官の能力向上について
ロードマップでは、難民調査官の能力向上の一環として、「事実認定を的確に行うための研修の実施」や「教材の作成」が示された。
難民認定における事実認定にあたっては、申請者の供述を裏付ける証拠の提出が困難であることや、申請者が迫害を受けるおそれを供述するにあたっての心理的負担、申請者と判断者の文化的背景や言語の違いなどが、難民認定に特有の性質として挙げられる。こうした状況を克服するために、「立証責任の分担」や「疑わしきは申請者の利益に(灰色の利益)」といった原則が国際的に確立され、信憑性判断のあり方に関する指標も示されている。
ロードマップが示す教材や研修が、UNHCR作成の既存の教材の活用やUNHCRによる監修の下に行われ、これらの国際基準に則った内容となることが望まれる。また、UNHCRの「難民認定基準ハンドブック」を踏まえ、事実の立証を含む認定手続きに関する基準も、難民該当性に関する規範的要素の明確化の対象とされるべきである。
的確な事実認定にあたっては、適切な通訳の確保に向けた施策も行われる必要がある。また、難民認定を専門で行う職員の確保など、研修の成果を最大限にするための取り組みも併せて行われるべきである。加えて、的確な事実認定は審査請求にも共有する課題である。難民審査参与員の多くが任命時に難民認定の実務経験がないことを踏まえ、事実認定に関する研修の対象に全ての難民審査参与員を含めるべきである。
(4)出身国情報の充実について
ロードマップでは、出身国情報の充実のための施策として、「難民を多数受け入れている諸外国との出身国情報に係る情報交換」が挙げられた。
出身国情報の調査における原則として、「情報へのアクセスに関する武器の対等」や「公開情報の利用」が示されている中で(※)、諸外国との情報交換によってのみ得られる情報が、難民認定の判断に用いられることは、懸念せざるを得ない。
出身国情報の充実は、中立性や透明性といった原則の下に行われるべきものであり、国際機関・NGO(UNHCR、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチなど)や、国家機関(アメリカ国務省、イギリス内務省、オーストラリア外務貿易省など)が公開している報告を適切に活用することが、まずは行われるべきである。
公開情報の適切な活用にあたっては、難民認定・不認定の付記理由において、国が申請者の主張の評価に用いた情報を、明確に示すことが重要である。また、難民認定における事実の立証の困難さによる出身国情報の限界も踏まえた活用が必要であり、この観点からも、上述のUNHCRとの連携による「事実認定を的確に行うための研修の実施」や「教材の作成」が行われるべきである。
※出身国情報に関する質的基準や原則について、ACCORD「出身国情報の調査 研修マニュアル 2013年版」[https://www.coi-training.net/site/assets/files/1021/accord_coi_training_manual_japanese_edition-2014-comb.pdf]、難民研究フォーラム「難民認定実務における出身国情報(COI)の意義と実践:発表資料」[https://refugeestudies.jp/wp/wp-content/uploads/2022/01/rejume1_RSFseminar_211109.pdf]を参照。
(5)組織のあり方に関する検討の必要性について
「難民の適正な保護の推進」にあたっては、ロードマップにおいて示された施策に留まらず、難民認定に関する独立した組織や法律の策定など、制度のあり方を抜本的に見直す施策も検討されるべきである。この点において、2020年の第7次出入国管理政策懇談会による「難民認定業務の専門性・独立性をより高めるために、その組織の在り方について検討することを求めたい」との指摘は重要であり、その実現がロードマップにおいて示されるべきである。
以上