活動レポート

入管法改定案の問題を伝える「#難民の送還ではなく保護を」キャンペーンまとめ

2021年2月19日、日本に逃れている難民の保護を揺るがす法案が国会に提出されました。
言葉の壁や様々なリスクから声をあげられない難民の方々も多く、日本で暮らす一人ひとりに法案の問題を知っていただき、声をあげていただくため、難民支援協会(JAR)は入管法改定案の問題点を分かりやすく伝えるTwitterキャンペーン「#難民の送還ではなく保護を」を実施しました。

【キャンペーン概要】
期間:2021年3月15日(月)~3月31日(水)
場所:Twitter(JARアカウント)

難民申請者を送還することの問題を計63回のツイートを通じて様々な角度から解説し、のべ18,837のリツイート・いいねが集まりました。さらに、ハッシュタグ「#難民の送還ではなく保護を」を使ったツイートが863ユーザーより1,572件も寄せられ、キャンペーン開始時には東京のトレンド入りも果たしました。

キャンペーンでの発信内容まとめ

キャンペーンでの解説を以下にまとめてご紹介します。

[目次]
● 難民申請を繰り返している人を送還できるようにすることが日本で問題なわけ
1. 解説バナー
2. 難民認定数・認定率
3. 制度比較
4. 事例
● 難民申請者を送還することの危険を示す事例
● メディアによる報道
● 弁護士会からの反対声明
● よくある質問
● 入管庁作成「そこが知りたい!入管法改正案」について

難民申請を繰り返している人を送還できるようにすることが日本で問題なわけ

1. 解説バナー




2. 難民認定数・認定率

難民申請を繰り返している人を送還できるようにする法改定は、日本において特に問題があります。なぜなら、1回目の難民申請で適正な判断がされないため、本当に難民として庇護を必要としている人も、難民申請を繰り返すほかないからです。
日本で難民認定が適正に行われていないことは、難民認定数・認定率に如実に表れています。2019年は約1万人の審査の結果、わずか44人しか難民認定されず、難民認定率は0.4%でした。G7の他の国々と比べても異常に低い水準です。

日本の難民認定率が他国と比べて低いのは、日本には難民が多く発生している国からくる人が少ないからでは?と思われるかもしれません。同じ出身国で比較をしても大きな開きがあります。例えばミャンマーは、日本では随分前から「民主化した」と見なされ、難民認定されることがほとんどなくなりました。

3. 制度比較

日本の難民審査には、透明性・公正性の観点で課題が多くあります。一次審査の面接に弁護士の同席が認められず、録音・録画もされないのは日本の特徴で、入管庁が作成した調書や通訳が正確か確認することは困難です。他国では録音・録画データを申請者に共有することも行われています。

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2020年の難民認定者数等の発表をうけて
2021年3月31日に発表された2020年の難民認定者数(47名)に対するコメントです。現状の制度の課題についても触れています。

4. 事例

日本で難民審査は出入国在留管理庁(入管庁)が行っていますが、その審査が適正さを欠いていることは、入管庁の難民不認定の判断をめぐる訴訟の結果、ようやく難民認定された数々の事例からも明らかです。審査が不適切なため、やむを得ず複数回申請せざるを得ない人が多くいる現状が分かる具体的な事例をご紹介します。

事例 ①
イラン出身のモラディさんは、イランでは禁じられているイスラム教からキリスト教への改宗を理由に日本に逃れ、2007年に難民申請。1回目も2回目も難民不認定となり、3回目の申請中に裁判で勝訴し、ようやく難民認定されました。モラディさんは、3回の難民申請を経てようやく難民認定された自身の経験から、難民申請者の送還を可能にする法改定を「あってはならない」「誰だってできるならば自分の国に住んでいる。6人の孫娘にも会えない。父が亡くなった時も帰れなかった。それが難民なんです」と訴えています。詳細:2021年2月19日 入管法改正案「改善見通せない…」当事者に期待と不安(朝日新聞)
事例 ②
女性の権利を守る活動を理由にエチオピア当局より拘束・暴行。2008年に来日して難民申請。証拠として女性協会の会員証、出頭要請書、指名手配書を提出するも、入国管理局(現・入管庁)はそれらの証拠価値がないとして2011年に難民不認定。この判断をめぐる裁判の結果、10年越しで難民認定されました。詳細:2018年8月9日 難民申請から10年…エチオピア出身の女性が勝訴!(難民支援協会)
事例 ③
スリランカで少数派のタミル人男性は、スリランカ内戦で経営する工場に爆弾が仕掛けられたり、親戚が殺される被害にあい、政府から度々拘束されたことから2006年に日本に逃れ難民申請するも不認定に。不服として起こした訴訟で勝訴したにも関わらず、入管庁は彼が日本で難民認定を求めている間にスリランカ情勢は好転し、迫害される可能性がなくなったとして再び難民不認定に。2度目の訴訟で東京高裁は「安定的に迫害の恐れが消滅したとは立証されていない」と国に難民認定を命じる判決をだし、彼は2度の不認定を経て13年越しで認定されました。詳細:2019年8月23日「確定した難民認定無視した」 スリランカ人が国を提訴(朝日新聞)

難民申請者を送還することの危険を示す事例

日本の事例

トルコ出身のクルド人難民申請者Kさんは、日本で難民不認定となり、収容されることを恐れて自費による送還に応じて帰国(1998年)。帰国直後、反政府活動をしていたとして逮捕され、裁判中だった翌年に自宅で殺されました。

クルド人はトルコ、イラク、イラン、シリアなどに暮らす少数民族で、日本には90年代から主にトルコで迫害を受けたクルド人が逃れてくるようになりました。諸外国では多く難民認定されていますが、日本はこれまでトルコ出身のクルド人を1人も難民認定していません。

海外の事例

英国からコンゴ民主共和国に送還されたD氏は、国家情報局に空港で拘束され、治療が必要になるほどの拷問を受けました。牢獄から抜け出した後、病院で毒を抜くための胃洗浄とバリウム浣腸を受け、その後も隠れて生活しています。

調査した英国の難民支援団体によると、コンゴ民主共和国では送還された難民申請者への拘禁、拷問、強制的な身代金の支払い、レイプが断続的に報告されています。送還された人の状況を把握するのは大変困難で、実態が明らかにされているのは一部に過ぎないにも関わらずです。

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難民・難民申請者を送還するということ(難民支援協会)
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日本で「小さな希望」を得るまで(難民支援協会)
日本にもコンゴ民主共和国から逃れてきた人は多く難民申請していますが、この記事の例のように迫害の危険性が明白でもなかなか難民認定されないため、複数回にわたり難民申請をせざるを得ない状況があります。法案が通れば、3回目の難民申請を手続き中でも送還できるようになります。

メディアによる報道

今回の入管法改定案について、マスコミ各社からも懸念が示されており、10紙以上が社説で取り上げています。以下、抜粋してご紹介します。

毎日新聞・社説(2/21)「特に問題なのは、難民認定の申請回数を制限する規定だ。(中略)日本は世界的に見て難民認定の判断が厳しい。2019年は1万375人が申請したが、44人しか認められなかった。まずは審査の手続きを見直すべきだ」

日経新聞・社説(2/21)「申請の乱用はもちろん問題である。だが日本はそもそも、難民の認可率が極端に低い点が国際的にも疑問視されている」

信濃毎日新聞(2/20)「申請の乱用が収容の長期化につながっているという入管の説明は理を欠く。認定の門が極めて狭い日本の難民認定制度にこそ問題がある。本来保護すべき難民を保護できていない現状をまずは改めなくてはならない」

朝日新聞・社説(2/28)「『難民認定の手続き中は送還しない』とする規定の見直しも盛り込まれた。3回目以降の申請については原則としてこのルールの適用外にするというが、申請を重ねるなかで認定されたり、在留を認められたりした例も多い。安易な送還は取り返しのつかぬ事態を招きかねず、懸念を拭えない。独仏なども回数制限を設けていると政府は説明する。だがこうした国々は初回の審査で難民と広く認定しており、格段に壁が高く不信をもたれている日本と同列には論じられない。国際社会の理解は到底得られまい」

北海道新聞・社説(2/25)「3回目以降は原則送還できるようにする。送還逃れの申請乱用を防ぐためという。しかし送還を拒むのは、迫害を避けるため祖国から逃げてきた人や、日本人や永住資格を持つ人と結婚し家族と暮らす人が多い。政府が向き合うべき現実だ」

京都新聞・社説(2/25)「国連が求める、難民の人権問題の改善に全く応えていない。政府が閣議決定した入管難民法改正案だ。国外退去命令を受けた外国人の長期収容の解消をうたうが、送還の促進が狙いではないか。欧米に比べて厳しい難民認定こそ、まず見直すべきだ」

せやろがいおじさんの動画による分かりやすい解説もTwitterで大きな話題を呼びました。

弁護士会による反対声明

今回の入管法改定案に対して、全国の弁護士会からも反対声明が出ています。この法案はのもととなっている「収容・送還に関する専門部会」による報告書「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対するものを含めると、34もの弁護士会が声をあげています。


日本弁護士連合会「3回以上の難民認定申請者等について、原則として送還を停止する効力を解除することとしている。しかし、難民認定手続の適正化に向けた法整備や具体的措置を先行させるべきであり、ノン・ルフールマン原則に反するおそれがあることから、反対である」

東京弁護士会「外国人や被収容者の権利を広汎に制限する一方、入管収容の期間の上限設定や短縮、司法審査の導入、難民認定制度自体の適正化といった抜本的改革はおしなべて見送っている。まさに、入管当局の権限強化を一方的かつ徹底的に図るだけの内容であり当初の目的から乖離している」

中部弁護士会連合会「日本においては、難民認定率が諸外国に比べて著しく低く、正当な認定がなされないことから、やむをえず難民認定申請を複数回行う者がおり、その結果難民認定がなされる事例もある。そのため、難民認定を繰り返すことが制度の濫用や誤用であると決めつけることはできない」

よくある質問

Q. 難民認定がほとんどされない日本になぜ来るの?他の国へ行けば良いのでは?

逃げる先を探すなかで、最初に日本のビザが下りたからという人が多いです。言葉の面などで不安があっても、他の国のビザを待つ余裕がなく、日本行きを決心します。「難民ビザ」のようなものは存在しないため、他国へ逃れるには、観光やビジネスなどのビザを取得し、たどり着いた先で難民申請することになりますが、日本政府は感染拡大以前、海外からの観光客誘致に力を入れていたため、観光ビザが比較的でやすかったことも影響していると考えられます。
日本の絶望的な難民認定率を知って泣き崩れる人もいますが、他の国へ行きたいと考えたとしても、ほとんどの場合、その選択肢はありません。帰国してビザの取得からやり直す必要があり、危険をともなうからです。日本にとどまるか、迫害の危険のある母国へ帰るかの2択のなかで、日本に残ります。
以下で紹介しているカビールさんのように事前に日本の難民受け入れ状況を調べ、その少なさに愕然とした上でも差し迫る危険と天秤にかけて、日本に来ることを選ぶ人もいます。迫害から逃れる先を探す人の状況はそれほどに逼迫しているのです。

Q. 難民の保護ではなく、難民が生まれないよう取り組むべきでは?

難民が生まれない、紛争や人権侵害のない秩序の実現に向けた取り組みは重要で、外交努力はもとより国際機関やNGOなど様々なアクターが取り組んでいますが、それだけでは不十分です。紛争や人権侵害のない世界が一朝一夕に実現しない現実があり、例えば、停戦が実現するまでに数十年、荒廃した国を再建するまでに最低数年かかっています。その間も、難民となった人たちは生きていかなくてはならないからです。平和で安全な国がそのような人たちを受け入れることも同時に必要です。

入管庁作成「そこが知りたい!入管法改正案」について

入管庁が入管法改正案の国会審議を前に「そこが知りたい!入管法改正案」をウェブサイトに掲載しました。改正案の概要説明とともに掲載されている「入管法改正案Q&A」のなかには、支援団体、弁護士、多くの人たちで声をあげてきた、この法案の懸念点を打ち消すことを試みる内容となっていますが、誤った主張が多く含まれており、以下で反論します。

Q4. 「日本からの退去を拒む外国人は、本国に帰れない事情や日本にとどまらなければならない事情があるから、退去を拒んでいるのではありませんか?」への回答として、重層的な手続きを経て難民に該当する人は難民認定しているので問題ない旨の主張をしていますが、日本の手続きが適正で公平ではないという課題に一切触れられていません。例えば一次審査の面接に弁護士などの代理人の同席が認められず、録音・録画もされないのは日本の特徴で(上述)、入管庁が作成した調書や通訳が正確か確認することは困難です。他国では録音・録画データの申請者への共有も行われています。

難民申請者に求める「立証の基準」が著しく高いことにも触れられていません。日本では迫害のおそれを裏付ける「客観的な証拠」が過度に重視され、提出できないと難民認定は難しくなります。本人の供述の評価にも問題があります。

<立証基準が不適切に高いことが分かる事例>
女性の権利を守る活動を理由にエチオピア当局より拘束・暴行。2008年に来日して難民申請。証拠として女性協会の会員証、出頭要請書、指名手配書を提出するも、入管はそれらの証拠価値がないとして難民不認定とした。
詳細:2018年8月9日 難民申請から10年…エチオピア出身の女性が勝訴!(難民支援協会)

難民の審査にあたっては、難民の置かれた特殊な状況による困難を鑑みて、証拠による裏づけはあまりに厳格に求めてはならないことや、精神状態を考慮する必要性は、いずれも国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が各国に向けて発行している『難民認定基準ハンドブック』で注意喚起されていることです。

Q5「なぜ、日本からの退去を拒む外国人を退去させられないのですか?」への回答に、「難民と認定されなかったにもかかわらず、同じような事情を主張し続けて難民認定申請を3回以上繰り返す外国人は、通常、難民として保護されるべき人には当たらない」ので、送還を可能とすることにしたとありますが、過去に3回目の難民申請でようやく難民認定された人が実際にいます。2010年~2018年に難民認定された212人中19人は複数回目の申請でした。先述の通り、入管庁の審査が様々な観点から適切なものとなっていない結果、難民として保護を必要とする人も難民認定されず、複数回申請せざるを得ないのです。

Q8.「今回の入管法改正より先に、難民認定手続を出入国在留管理庁とは別の組織に行わせるなどして難民の保護を十分に行い、日本の低い難民認定率を諸外国並みに上げるべきではないのですか?」への回答のなかでは、「大量の難民や避難民を生じさせる国との地理的要因などは、日本と欧米とでは大きく異なりますので、難民認定率のみを単純に比較するのは相当ではない」とありますが、ミャンマーの例が示すように同じ出身国で比較をしても大きな開きがあります。地理的要因は難民認定率が低い言い訳になりません。

このほかにも、難民の方々の実情を踏まえていない主張が多く、これらをもとに入管法改正法案の国会審議がされてしまうことを危惧しています。
(参考)入管庁「入管法改正案Q&A」