活動レポート

ゴールドマン・サックス証券株式会社および株式会社ファロンからのブランディング・マーケティングへのご支援

    特集 企業・団体との連携事例インタビュー ー企業の本業を生かしてー

    難民支援協会(JAR)は、2007年にロゴをリニューアルし、「難民スペシャルサポーター」という寄付制度の新設、新たな広報資料の作成やイベントの実施などを行いました。

    日本に逃れている難民の現状と難民を支援しているJARについて広く知っていただき、多くの方々からご支援をいただけるようにするこのブランディング・マーケティングの取り組みには、JARが支援を提供し続けられるよう基盤を固めていくことがJARの責任と感じるようになってきた背景があります。このために、ゴールドマン・サックス証券株式会社(以下、ゴールドマン・サックス)からは資金を、株式会社ファロン(以下、ファロン)からはデザインなど技術面でご支援いただき、実施することができました。

    一般的に、受益者に直接届く支援に対し、ブランディング・マーケティングなどの基盤強化につながる活動には資金が得にくいといえます。また、日本では、プロボノ*活動による支援はまだ珍しい状況です。今回、なぜ支援が届きにくい分野・事業にあえて着目し支援を決定されたのか、専門家として無報酬の活動を行うことになったのか、そして本取り組みの意義について、ゴールドマン・サックスのチャリタブル・サービス・グループの平尾佳淑さんと、ファロン、アカウントディレクターの伊丹麻衣子さんから、JAR理事の永峰好美がお話を伺いました。

    *プロボノとは、ラテン語で「公共のために」という意味。専門家等によって提供される無報酬の公共サービスのこと。

    *弊会へのご支援、連携にご関心がございましたら、こちらをご覧の上、お問い合わせください。
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    —–なぜ、今回のような取り組みを行うことになったのですか?

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    石川 JARは設立して8年になります。日本における難民を支援するということは、社会的弱者を支援するというパブリックな分野での活動だと思っているのですが、なかなか公的資金が得られないでいます。しかし、日々相談にくる難民の人たちに対して、お金がないから支援できないとは言えません。私たちが皆さんから頂戴するご寄付等のお金が彼らの命綱となっていますから、安定的に支援活動を広げていくことが私たちの責務だと感じるようになってきました。しかし、これまで腰を据えて寄付を求めていくような余裕もない状態でした。
    今回、JARを広く認知してもらい、多くの人たちの支援を得るためのブランディングについて、ゴールドマン・サックスさんとファロンさんから資金面・技術面でのご協力をいただきました。その結果、生まれたのがパンフレットやロゴであり、新しい寄付制度(難民スペシャルサポーター)の構築でした。パンフレット完成からまだ2週間ですが、毎日、「難民スペシャルサポーター」への申し込みが来ています。

    —–ゴールドマン・サックスさんに今回いただいた支援ですが、このプログラムについて少しご説明をお願いしたいのですが。

    写真:平尾 佳淑さん
    平尾 佳淑さん

    平尾氏:弊社には寄付金プログラムという非営利団体を対象にした支援プログラムがあります。基本的には弊社の社員をボランティアとして出すというものなのですが、それができない団体さんには資金援助をすることがあり、この2つのリソースをうまく組み合わせて行っています。団体さんによってニーズは全く違うので、援助の内容はさまざまです。先方がいちばん必要としているもの、たとえば屋根の修理だったり、研修の費用というのもありました。

    —–それはCSR、企業の社会的責任の一環としてやるべきことというお考えなのですか?

    写真:永峰 好美
    永峰 好美

    平尾氏:弊社にはCSR部というのがあるわけではないんです。ただ、きれい事になってしまうかもしれませんが、健全な地域があってこそ、企業活動を発展させることってできると思うんですね。健全な地域を作るためにJARさんもそうですが、いろいろな方や団体さんが活動をされています。それで地域をよくするためにがんばっていらっしゃる団体さんに、われわれも企業市民としてサポートしていこうというのが、基本的な考えにあるんですよ。

    —–今回は、ブランディングにかかる費用をゴールドマン・サックスさんに支援していただきました。しかし広告・マーケティングのための支援のような費用対効果がわかりにくいものは、企業としてはリスクがあるとはお感じにはなりませんでしたか。

    平尾氏:まったく思わないです。団体さんにとっていちばん必要なものをサポートするのがわれわれの姿勢です。JARさんの場合、それが広告戦略であったわけです。私たちがこうしてくださいというものが全然ニーズのないものだったら、そのお金は無駄になるわけですよね。今回のブランディング・マーケティング活動というのは安定的な資金が増えて団体さんの基盤を確実なものにしていくものであり、実は私たちが目指しているところでもあるのです。
    私たちの基本的なビジネスは投資で企業を大きくします。非営利団体だって、基本的な考え方はそれと同じなんですよ。寄付をする、そのお金で団体さんが大きくなる、次の段階に行くというふうに成長していってもらえることが私たちはすごく嬉しいんですね。基盤整備ってとってもわかりにくい。人材育成や広報などは評価が難しいのですが、とても重要です。
    JARさんのやってらっしゃることには、いろんな要素があり、知識がないとだめですよね。結果も出さなくてはいけない。プロフェッショナリズムというものが本当にあるし、ただ熱意でできる仕事じゃない。それがすごいと思います。

    石川:やっぱり現場があって、日々すごく悔しい思いもあり、うまくいったときには嬉しい思いもします。そうした思いを通じてもっと難民に関する法律や出身国について知らないととか、もっとこの制度良くしないと、というようなかたちで、常に現場で起きたことにたきつけられているということがあると思います。

    平尾氏:確かに、最初にJARの方にお会いしたとき、パッションも感じたし、活動の内容を知れば知るほど、なかなかこういうことをやってらっしゃる方はいないことが分かったんです。ただ、やはり企業ですので、感情だけで「じゃあここに寄付しよう」というふうにはできません。JARさんがすばらしいと思うのは、ちゃんと定期的にメールや報告書でフィードバックをくださること。そのスタイルが企業としてはとてもありがたい。それで信頼関係ができるんですね。ちゃんと使ってくださってるんだなって。

    —–伊丹さんは今回、本業である広告代理店での経験を生かして、ご協力してくださいましたが、どうして関わろうと思われたのですか?

    写真:伊丹 麻衣子さん
    伊丹 麻衣子さん

    伊丹氏:今回、私たちがプロボノというかたちで参加するきっかけとなったのは、「難民アシスタント養成講座」に出て、ものすごく感銘を受けた同僚がいたからです。日本にも何人も難民がいるのにぜんぜん知らされていない、と。コミュニケーションという点から何か自分たちにもできることがあるんじゃないかと、彼が私にお昼の場で話したところから始まりました。私自身も、実家の近くにインドシナ難民の方たちのための定住センターがあって、学生時代、そこにお手伝いに顔を出したり、難民の方のレストランに行ったりというきっかけはありましたが、難民の方たちがものすごい経験をしてはるばる日本にきていることや、母国とは違う方向で生きているというような話を聞いていて、それが常に意識のどこかにあったのだと思います。同僚の話を聞いたとき、その意識がつながったんですね。JARさんのことは、そのときはまだ知らなかったのですけど、売らないといけない「製品」といっては申し訳ないけど、ものすごくしっかりしたセールスポイントを、数ある団体の中でも強くお持ちでした。これならば私たちが持っているコミュニケーションという専門性が生かせるだろうということになりまして、ファロンの中の先ほどお話した養成講座に出た者とデザイナーと私の3人がボランティアとしてチームを組んだわけです。

    —–ご苦労された点というのはありますか?

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    伊丹氏:最初は集約すべきJARのセールスポイントが、見えにくかったですね。皆さんものすごい情報をお持ちだったのですが、整理がされていなかった。何回か伺ってお話をしているうちに、皆さんが「難民を受け入れる地域自体がよくならないと、結局、意味がない」、「難民の方を受け入れられる社会があるべき姿」ということを強く意識し、そして働きかけられていることが分かり、売るべき点が少しずつ見えてきたのです。広告を作る上では他の何が秀でているかを探すのが大変なんですけれど、JARさんの場合は違って、例えばボランティアの方が「JARはフロントランナー、先駆者なんです」とおっしゃったことなどもヒントになりました。日本において日本に来ている難民の支援をしている。そこがJARさんの他にはないセールスポイントだということで、やっていけばいいかなと強く思いました。

    —–パンフレットはどんな点で工夫されましたか?

    伊丹氏:パンフレットの中には、読みたくないようなものもありますよね。読む人の目線にならないといけないのに、よくありがちなのが、一方的な情報の発信です。難民がどの国から来ているとか、人数は○人だとか。それもいいのだけれど、それがいったい自分とどんな関係があるの?ということが重要なんです。たとえば、自分の住んでいる市に○人いますとか、こう変えると難民の人たちの状況がこのように変わりますとか、自分の身近にその問題を置き換えるパワーを作ってあげないといけない。アクションを生む媒体にならないと。
    ちょっとつらい内容をちゃんと最後の頁まで読んでいただいて、それが日本の身近な話であり、読み手もなんかしなければ、と思い立っていただくようにするにはどうしたらいいか。そのために頁の構成や写真の撮り方、色などで工夫をしてみました。
    よく難民の話題を紹介するとき、難民キャンプでお子さんが泣いているような写真を使うことがあります。それは人を惹きつける力はあると思うんですが、それでは自分から遠いもののままになっちゃうんですね。JARさんの場合、日本にいらっしゃっている難民の方のための団体ですから、日本の話なのです。ですから、使っている写真も、このビルマ(ミャンマー)の方のように、日本にいるという生活感、それをどう伝えるかということに視点を置かないと、JARに寄付しようという話にはならないんじゃないかという話をしながら、作りました。
    JARさんは一般の方にはまだ十分に認知されていないので、初めて見た人に怪しい団体だと思われることは絶対避けたかったんですよね。信頼ができる団体で、ここに寄付すると、本当に有効に使ってもらえるということを感じていただかないといけない。そういったことにもロゴ作りなどで、心がけました。

    —–このロゴは「人」という文字ですよね。

    伊丹氏:同時に、これには「j」「A」「r」の3文字が含まれているのです。難民を支えるJARも皆さんの支援に支えられて、お互いに寄り添っているというところです。これからの日本の難民支援をきちんとやっていくぞ、という進んで歩んでいくというような躍動感をJARの皆さんからも強く感じたので、このようなロゴデザインになっています。

    —–いろいろなサポートを受けつつ、このひとつが完成したわけですけれど、今後の課題やどんなことをお考えになりましたか。

    写真:石川 えり
    石川 えり

    石川:今回の支援をいただくとき、2つの課題を立てて、ひとつは初年度に前年度の50%増の新たな寄付確保を実現すること。これは達成できましたが、もうひとつは毎年そうした伸び率を確保できるようなシステムを構築することなんです。
    今、パンフレット、ロゴ、難民スペシャルサポーター制度ができたという段階なのですが、このお陰でいろいろな方が関心を持って、コミットを表明してくださっています。このパンフレットは難民の顔やストーリーが見えるかたちになっており、人を「難民」というカテゴリーでとらえるのではなくて、一人ひとりの個性がある「人」なんだと言うことが伝わったんですね。これまでの暗くなりがちな難民の状況の紹介に代わって、すごく希望が持てるすてきなパンフレットを作っていただきましたから、これをツールに目標の資金を集めたいと思っています。また、資金を集めて行こう!という広報・マーケティングの取り組みにより、組織全体の意識も変わり、設立8年目にしてお金を稼がなきゃというマインドになりました。
    今までは支援活動を一生懸命やっていて、支援がちゃんとしていたらニュースレターなど広報は貧相であってもいいというところがあったんです。でも、難民の人たちも地域社会を構成する一員であることを多くの日本人に理解してもらうことも大切です。パンフレットは資金を集めるツールであると同時に、日本にいる難民のことを伝えるツールにもなっています。

    —–お金を稼ぐツールであり、コミュニケーションのツールであり、難民の人たちを幸せにするツールでもあるというわけですね。これでスタッフの人たちの意識も変わってきましたか?

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    石川:そうですね。誰も注目していないことをしている自分がいいな(笑)というようなところがどこかしらあったような気がするんですね。そうじゃなくて、普段の会話の中でもみんなに口にしてもらえる、もっと浸透させていける課題なんだということを、自分たちもこのパンフレットによって再認識できたし、自信を持って紹介できるものとして私たちの活動を評価していただいて、嬉しかったです。理事・職員一同、これを日々の業務の励みにしていきたいと強く思っています。