政府において検討中の「出入国管理及び難民認定法施行令の一部を改正する政令案」には、在留資格の変更及び更新に係る手数料を増額する規定が設けられています。私たちが支援をする難民の生活に直結する提案です。手数料の増額に反対する立場から、意見を提出しました。意見書本文は、以下をご覧ください。
出入国在留管理庁参事官室御中
「出入国管理及び難民認定法施行令の一部を改正する政令案」に対するパブリックコメントの提出
2024年12月25日
特定非営利活動法人難民支援協会
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1.はじめに
私たちは、日本に逃れた難民の支援を行う認定NPO法人です。在留資格の変更及び更新に係る手数料の額の改定は、私たちが支援をする難民や私たちの支援活動に大きく影響するものです。難民の尊厳や安心を守る立場から、「出入国管理及び難民認定法施行令の一部を改正する政令案」に対し、以下の意見を申し述べます。
2.意見の概要
【政令案の概要】 在留資格の変更及び更新に係る手数料の額を改定し、現行の四千円から六千円とする。
【意見】 手数料の値上げにより、手数料の支払いが困難な難民申請者が増加し、難民申請中の法的地位の不安定につながることを懸念する。在留資格の変更や更新に係る手数料を増額するべきではない。
仮に手数料の増額が避けられない場合には、支払いが困難な者に対する具体的な減免措置を講ずる必要がある。増額により手数料の支払いが困難となる者に対する貴庁の対応方針を示されたい。また、今回の手数料の改定にあたり、政府は「最近における物価の状況、手続に要する実費等を考慮(※1)」したとしているが、その具体的な算出根拠は明示されていない。「物価の状況」による影響を受けるのは在留資格の変更及び更新を行おうとする者も同様である。どのような算出根拠に基づき二千円という大幅な増額を定めたのか、示されたい。
3.意見の詳細
(1)難民申請中の法的地位の安定の重要性
【意見】 在留資格の変更及び更新に係る手数料の増額により、難民申請中の法的地位の安定に支障をきたすことを懸念する。
【意見の理由】 難民の地位の申請が審査されている間のその国への滞在は、難民認定手続の基本的要件の1つを構成するものである(※2)。現に日本においても、難民申請者に対する在留資格の許可に関する運用が定められてきた(※3)。法的地位の安定により、申請者が送還や収容のおそれを感じることなく、安心して難民認定手続を行うことができる環境の構築につながる。また、難民の地位の認定は宣言的性格を有するものであり(※4)、難民申請を行った段階から、庇護国社会の一員としての生活が始まるといえる。在留資格の変更や更新に係る手数料の増額により、難民認定手続中の法的地位の安定が損なわれるようなことがあってはならない。
(2)難民申請者にとって手数料の支払いが困難であること
【意見】 在留資格の変更及び更新に係る手数料の増額により、手数料の支払いが困難となる難民申請者が増加することを懸念する。
【意見の理由】 在留資格の更新頻度の高さと回数の多さが故に、難民申請者は手数料の改定の影響を特に受けることとなる。難民認定申請やその審査請求を行っている者を対象とする「告示外特定活動(難民認定申請者用)」の期間は、「難民認定等事務取扱要領第3章第1節第4に定める振分けに必要な期間(※5)」中は2月を超えない範囲、その後は振分けの結果に応じて3月または6月とされている(※6)。難民認定手続中(2023年の平均処理期間は約3年。一次審査と審査請求の合計)、最長でも6月ごとに在留資格の更新申請を行うこととなる。
生活に困窮する難民申請者にとって、在留資格更新の手数料は大きな負担となっており、捻出が極めて困難である。初回申請者の多くを占めるD案件において、難民申請から約8か月間は就労を認めない運用がとられている(※7)。一方で、難民申請者に対する公的支援である「保護費」は、申請者のごく一部にしか支給されておらず(※8)、申請から支給決定までに平均約61日(2023年度)を要する(※9)。当会では、今年度においても、保護費の申請から受給開始までに3か月以上を要した事案や、生活困窮の結果、野宿を余儀なくされているにもかかわらず、保護措置不適当とされた事案を複数把握している。このような状態で、生活費や住居に充てるお金を切り詰めて在留資格の変更及び更新に係る手数料を捻出している実態である。
個人の支援者や団体の支援を受けて、手数料の支払いを行っている場合も少なくない。当会においても、2024年6月までの1年間で約145万円の在留資格の変更や更新に係る手数料を負担している。現在の金額においても、支払いが困難な難民申請者がいる中で、増額が難民申請者の法的地位の安定に悪影響を与えることは明らかである。
以上
※1 出入国在留管理庁「「出入国管理及び難民認定法施行令の一部を改正する政令案」の概要について」https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000283070
※2 「申請者は上記第(ⅲ)節に言及する権限ある当局によりその申請(=難民の地位の申請/当会注)が審査されている間はその国に滞在することを認められねばならない。ただし、その申請が明らかに濫用であると当局が認定できるときはこの限りではない。また、より上級の行政機関又は裁判所への不服申立係属中もその国における滞在が認められなければならない」。UNHCR執行委員会結論第7号(1977年10月12日)(e)(vii)及びUNHCR「難民認定基準ハンドブック」第192段落(vii)。
※3 「「短期滞在」等の在留資格がある状態で難民申請に至った申請者につき、従前は少なくとも一次不認定処分後は短期滞在の期間更新が不許可とされ、異議段階では収容され、しからずとも“不法滞在”状態で決定を待たざるを得なかったものが、異議の決定までは「特定活動」の在留資格を更新され続ける実務に変更されたこと(中略)が、2005年改正法施行後の前進と評価できる」。関聡介「続・日本の難民認定制度の現状と課題」『難民研究ジャーナル』第2号、2012年、2~23頁。
※4 UNHCR「難民認定基準ハンドブック」第28段落。
※5 「入国・在留審査要領」第12編第26節第2「3 告示外特定活動(難民認定等申請者用)」。
※6 法務省入国管理局「難民認定制度の運用の更なる見直し後の状況について」(2018年8月31日)。
※7 出入国在留管理庁「令和5年における難民認定者数等について」(2024年3月26日)及び前掲注6。
※8 難民支援協会「難民申請者はどう生きてゆくのか?-公的支援「保護費」の課題と生存権」https://www.refugee.or.jp/report/refugee/2023/10/hogohi/
※9 2024年6月18日付け石橋通宏議員質問主意書への政府回答[内閣参質213第184号](2024年6月28日)。