活動レポート

難民の就労支援で目指すのは日本で希望が持てる選択肢づくり
JAR活動紹介インタビュー vol.3 【定住支援部:可部州彦】

難民支援協会(JAR)が日々の活動の中で大切にしていることとは何か、スタッフのインタビューでお伝えします。

第3回は、定住支援部マネージャーの可部州彦(かべ・くにひこ)です。

【定住支援部とは】就労資格のある難民と企業をつなぐ就労支援や、難民が多く暮らす地域でのコミュニティ支援など、難民の方々が日本で中長期的に暮らしていく上で必要となる支援を行っています。

――はじめに、JARではどのような就労支援を行っているのか教えてください。

JARに相談される難民申請者の多くは、申請から約8ヶ月後に就労許可がおり、結果が出るまでの間、経済的に自立することを希望されます。JARではまず当事者と面談し、母国や他国で習得したスキルや経験、日本語能力、そして業種や業界、働き方など、丁寧にヒアリングします。それらを踏まえて、就職の目的が直近の生計維持なのか、キャリア継続等なのか、ニーズを踏まえて支援方針を定めます。そして、当事者が目的に沿ってよりよい選択肢を獲得できるよう、企業開拓やマッチングを行います。

よりよい選択肢を得るには、当事者と企業の双方が、お互いを知って興味を持ち、関係構築を通じて就職・採用に至るプロセスが非常に大事です。そのために、JARでは就労許可が出るまでの待機期間を活かして、お互いを知るツールのひとつである日本語の学習機会を日本語学校と提携して提供しています。

具体的には、初めて日本語を学ぶ就労希望者を対象に、1日3時間・全60日間(合計180時間)中に、職場で最低限必要な日本語のフレーズ(例:お疲れ様です)と単語、ほうれんそう(報連相)などのビジネスマナーなど、言語/非言語で必要なコミュニケーションを集中的に学びます。これらは就労初日からすぐに活かせる内容で、職場の同僚や先輩社員との良い関係構築に貢献します。特に難民と聞くと「何か行うのが難しい人」というイメージが先行します。ですから、事前準備があることで、企業側も当事者を「難民」ではなく「人」として、「会社の仲間(社員)」として受け入れるきっかけを得ることで、双方の心理的、言語的ハードルを下げるというメリットがあり、職場でのスムーズな定着につながります。

――JARに就労の相談にくる方はどのような方が多いですか?

多くはアフリカ諸国出身者ですね。アジア系の方もいらっしゃいますが多くはないです。そのため主に英語話者、フランス語話者ですが、日本語でのコミュニケーションが限定的である点では同じなので、就職のしやすさには関係しません。年齢は主に20代~40代で、学歴としては大卒が圧倒的に多いです。アフリカのフランス語圏の方のなかには日本でいう高専(高等専門学校)を卒業している方もいらっしゃるので一概に大卒とは言い切れませんが、比較的高度な学歴を持った方が多いですね。

――支援をする際に大切にしているのはどんなことですか?

就労支援の文脈では、当事者と企業の双方を見てマッチングをすることが大事です。それは、当事者が難民の背景を持つと同時に、その方が持つ意欲、スキル、経験を活かせるか、企業が必要とする人材にあてはまるかという人としての視点です。その方がどういった経歴、日本語を含めた能力・経験を持っているかを最初に把握しながら、短期・中長期的に日本でどうしていきたいかが、当事者と向き合う際に確認すべき最も大事なポイントとして捉えています。

そのうえで、その方がより多くの選択肢を持てるように様々な企業の求人情報とのマッチング、あるいは新規開拓を行います。ただ、その際に重要なことは「難民の背景を持っているから受け入れてください」ではなくて、あくまでも「当事者の持つ個性が、人材として御社の戦力になるかどうか。こういう経験やスキルを持っている方なんだけれども」と話をします。最終的に双方が働きたい、雇用したい、と選択肢をもって判断できる環境を作るのが僕の仕事です。そのためによりよい選択肢を増やすことを目的に、ご本人の経験や希望に沿って、そして企業のニーズも踏まえながら常に双方とコミュニケーションをとる点を大事にしています。

――お問い合わせいただく企業は、どういった理由で難民の雇用に関心を持たれていますか?

多種多様ですが端的にいうと、難民を人材として見ていて、戦力になるかどうかスキルや経験をみて採用したいという企業さんは1割。安い労働賃金で働いてくれる人を探している企業さんが過半数以上で6割。残りの3割が社会貢献として、難民のためになにかできることがあればとお問い合わせいただくというところかなと思います。

――そのなかから難民の方とマッチングする企業はどのように選んでいますか?

お問い合わせやご紹介いただいた企業には、まず対面やオンラインで打ち合わせ後、職場(現場)訪問をさせていただき、実際の雰囲気や業務を確認します。現場にいけない企業は紹介する対象から外します。現場が都内にあろうが北海道にあろうが、オンラインツールを利用するなどしてできることはあるので、とにかく現場をみて、経営者だけでなく受け入れ担当者の方ともなるべくお話をして受け入れ環境をみるようにします。それは、実際に働く当事者の視点に立った時、だれしも職場・現場を事前に確認してみたい。しかしながら色々な制約の下、それがすぐにできない事情もあります。ですから、当事者の代わりに事実を確認して選択肢となりうるかどうか検討します。

僕の仕事は、僕が当事者に代わって、どこで働くかを判断することではないんですね。判断するのは就職する当事者であり、雇用する企業側の双方です。当事者の方が、いまは日本語の問題など色々大変で、特に読み書き能力の向上には多くの学習時間が必要になると同時に、日々の生計維持の手段確保も無視できない。それらを踏まえて、まず日本語を多く必要としない業務に従事すると判断されればそれを支援側がとめる理由は一切ない。しかし、「難民を3K 職場に追いやるなんて」という声を直接耳にすることがあります。JARで支援する場合、当事者一人ひとりの意向を最大限尊重し、選択肢を提示します。例えば、多くの日本人が3Kと言う仕事でも、母国にとってはその業務が復興や開発に必要だと考えて選ぶ方もいます。

重複しますが、支援者の主観で判断するのではなく、あくまでもすべてを明らかにして、そのうえで判断してもらうということを大事にしています。企業側の許可を得て職場や現場の写真をとり、当事者に見てもらう場合もあります。ですから、企業を選定する際も最初の電話だけで判断するということはしません。まず現場を見て、そのうえで、我々がどういう考え方でマッチング先を探しているか、雇用する側だけでなく就職する難民も就労先を選ぶ、つまり、双方が選んではじめてマッチングが成立するということをご理解いただけるか確認をして、会社を選定しています。

――企業の方とお話しする際には、どのようなことを大切にしていますか?

「社会貢献だけを目的に雇用しようとは思わないでください」とあえて最初にお伝えしています。技能実習生や留学生と比べても、企業の受け入れ体制や業務によっては日本語能力など当事者が伸ばさなくてはならないところがたくさんあります。もちろんスキルや経験はありますが、当事者の置かれた状況を踏まえると雇うには相当な覚悟が必要になりますよと。難民という人はいません。ですから、難民の背景をもつ方を雇用したい理由、例えば、社内にこういう人たちが来ることによって、こういった刺激になると考えているといった期待を伺った上で話をします。

確認するのは、お金を払ってでも採用したい人、としての意識が経営層と職場の配属先マネージャーにあるかどうかです。経営層が前向きでも、現場では現場の様々な事情があります。給与を払っても雇いたいという思いがないと、就職後に継続・定着しないからです。社会貢献で難民を雇用したいという場合、採用後に様々な問題が起きたときに、「よくわからないから、うまくいくようにちゃんと指導してよ、やらせるようにしてもらわないと困る」といった内容で問題解決をJARに頼られることがかつて多くありました。あるいは、経営者から指示があり育成を担当することになった配属先の社員が相談できる人は周りに不在で、一人で抱え孤立されたケースもありました。

そういった経験を踏まえて、ここまでお話ししたような事前に双方が確認するプロセス(インターンシップ)を導入し、双方が納得の上で就労・採用に至った場合、まずは社員として自社で問題に向き合い、解決を試みてください、とお話しします。それぐらいの覚悟があるかどうか、その確認を大事にしています。

――今の日本での難民の就労支援において、最も大きな課題とは何だと考えますか?

双方に時間的な余裕がないことです。日本語を学ぶ時間がない、あるいは採用した後にちゃんと現場でチームの一員として巻き込む時間的な余裕がない。いずれも準備ができていないということです。JARでも就労準備日本語プログラムは実施しているけれども、十分ではありません。5年、10年かけて準備すべきものが、ある日突然、今日からよろしくね、という状況もあります。ですから本来であれば準備の段階で対応できるものができていないので、どうしても様々な課題が生じます。

難民の背景からして、まず帰国できない。そして、迫害から逃れてたどり着いた日本は、自身にとって全てが初めてで、留学生のように事前に十分に日本の事を調べてくる人はいません。いわんや、最初から日本で働くことを目的に準備してくる人とは異なります。そのため、時間的余裕がないのはその人のせいではありません。ただ、コロナ禍や物価高騰など誰しも等しく直面する日々の厳しい状況で、余裕がなく、様々な問題解決を自己責任とする傾向が一層強まっていると感じます。そういった中で、企業、社員の余裕、金銭的・時間的な人材育成の余裕はなく、1社ですべてを対応することは難しくなっています。双方がよりよい選択ができるように、JARは、企業と当事者とともに三位一体で一緒に問題へ直面しています。

特に、難民の就労支援は相談支援業務で終わらない、机に座って指導して終わらないものがほとんどです。一般的に就労支援というと、履歴書の確認、翻訳や、自己PRの指導、場合によっては業界研究や企業の求人情報の読み合わせなど、本人からの相談を支援する業務です。支援メニューにばらつきが少なく、ある程度形が決まっていると思うんですね。

ところが、難民を含めて外国人の就労支援はそうではない。母国と日本で異なる働き方を筆頭に、双方の期待値の調整であったり、現場でおきる様々なズレに対して、これをどう問題解決すればいいのか、当事者、企業と一緒に考えます。企業と難民の方との間で、言葉が十分に通じないということもありますし、そもそも文化的な違いから価値観が違っていたりするので、間に入って双方の話を聞きながら、橋渡し役(異なる働き方文化の通訳・翻訳)となり問題解決案の提示をしていく必要があるというところが大きな課題だと思います。

――コロナ禍が続くなかでの変化はありますか?

コロナ禍で企業活動が停滞し、業務の縮小、時短など、様々な影響がありました。雇い止めが発生するかもしれない、その際、どうすればいいか、すぐに良案がないなか色々と思案をしていました。こういう時だからこそと思い、何ができるのだろうかと当事者を採用した企業とのコミュニケーションを増やしました。オンライン上で、電話口で「一時的な自宅待機や時短になるが、必要な人材だから雇用は守る」という話が聞こえてきたのは、1社や2社ではありませんでした。

また、入国制限によって難民の方を含め来日が激減しました。そのため、これまでは来日直後の当事者に対する支援が大きな割合を占めていましたが、日本での経験がある程度ある人への支援になっています。日本語は習得途中でも、日本での就労経験がある=日本での働き方が分かるという点も評価につながり、より積極的に採用したいという企業や選択可能な企業が増えています。その結果、その人が持っているものを活かした仕事の可能性が広がっています。

一方でコロナが始まってから対面でできたことができなくなったことにより、非言語的なコミュニケーションの部分で企業との関係性を作りづらくなったという変化もあります。例えば、笑顔であったり仕草であったり、「言葉は分からないけど、育成してみたい」と思ってもらえる、そういった空気感を共有できないことに伴うデメリットや、難民の側も企業の雰囲気が分からないというところで、そのギャップを埋めていくための業務量・作業がいまだに相当な困難を極めていますね。

――この数年でミャンマー、アフガニスタン、ウクライナの情勢の変化で、難民への認知度は高まったと思いますが、企業の難民への理解が深まったといったポジティブな影響はありましたか?

報道では難民の雇用に積極的な企業の例も取り上げられています。しかし、特定の国籍なら受け入れるという姿勢が強い企業も少なくありません。実際の採用現場ではあまり影響はないと感じています。「買い物難民」など、難民は「難しい人」というイメージが先立つ報道があまりにも多すぎること、また、アフガニスタン、シリアを含めて治安や安全保障に関するネガティブな印象を与えるものが多いことからプラスなことはほとんどありません。なぜ高学歴で能力があるのにわざわざ日本に来るのかと懐疑的に聞かれることが圧倒的に多いですね。一方で、ウクライナ難民で困っている人がうちに来てうまいことやってくれるならいつでもいいよ、といった当事者置き去りで一方的な都合の押しつけマインドが強まっていると感じる時もあります。

――就労支援において、何をゴールと考えていますか?

JARの就労支援のゴールは、当事者の方を就職させる、ではなくて日本でのこれからの生活に希望が持てる選択肢をどれだけ多く作れるか、その環境をどう整えられるか、ということです。当事者が一番達成したいこと、そこにはじめから到達できなくてもそれに続く一歩になること、そのいずれかを一緒に考えます。それがお金なのかもしれないし、キャリアアップなのかもしれないし、それは人によって違いますが、その方がどう考えてどうしたいかを一番大事にしています。

可部 州彦/JAR 定住支援部マネージャー
明治学院大学教養教育センター付属研究所研究員、内閣官房 第三国定住による難民の受入れ事業の対象拡大等に係る検討会 有識者委員、JICAシリア平和への架け橋・人材育成プログラム副統括。JARに入職後、難民の就労支援を専門とする。