活動レポート

難民の方々にとって「食べること」とは ~心も満たす食の支援~

写真:JAR事務所で食料をお渡しする様子。(モデルによる撮影)

長引くコロナ禍で、難民の方への対面での支援が制限される状況が続いています。この間、難民支援協会(JAR)が特に力を入れて取り組んできたのが、「食」を通じた支援です。背景には、栄養バランスや宗教など個別のニーズに対応するだけでなく、心理的な安心を得てほしいというスタッフの思いがあります。

日本に逃れた難民の方には、来日直後から最低限の衣(医)・食・住もままならないという方が多くいます。難民申請中は政府からの支援金を受けられる人もいますが、受給額は生活保護と比較して3分の2程度と限られています。食事に事欠く状況を回避するため、JARではこれまでも食料の支援を行ってきました。

食料支援には、食料の調達・保管、賞味期限の管理に加えて、豚肉やアルコールが禁止されているイスラム教など宗教上の理由や、健康上の理由から食べられない食材がある方も多いため、使用されている原材料をしっかり確認した上で適切な提供をすることが必要です。以前のJARでは、保管場所や予算の制限もある中、最低限おなかを満たすことができる食料をお渡しするのが精一杯でした。

2018年に移転した新しい事務所には、多くのスタッフの声を受けて、食料の保管場所が増やされ、小さいながらもキッチンを備えることができました。ボランティアの方がセカンドハーベストジャパンなどのフードバンクや、近所のパン屋さんから食材を運んでくださり、賞味期限をメモした付箋を貼って食材を管理する体制が整えられました。年末には、あたたかいスープなどをキッチンでつくり、難民の方に食べてもらうこともできました。

写真:JAR事務所の食料を保管する棚

しかし、コロナ禍が始まり、ボランティアの方にお手伝いいただくことや、キッチンでつくった料理をふるまうことは感染防止の観点からできなくなりました。以前は事務所が開いている時間帯には、難民の方に終日いてもらうことも可能でしたが、相談などが終わったら帰っていただくように変更せざるを得ませんでした。

できる支援が限られる中でJARが取り組んだのが、食料支援を充実させることでした。支援事業部で食料支援を担当するスタッフの西岡は、JARに入職する前に働いていた女性や子どもたちのためのシェルターでも、食を通じた支援の大切さを実感していました。食べることは、単におなかを満たすことではなく、小さい頃から食べ慣れたものを食べれば気持ちが落ち着き、誰かと共に食事をすれば、不安がやわらぐ。そうしたあたり前のあり方に近づけたいと工夫を重ねてきました。

少しでも母国で慣れ親しんでいたものを提供するため、フフやクスクスなど主にアフリカの伝統的な主食を購入し、提供するようになりました。こうした食材は、以前は日本では手に入りづらいものでしたが、最近は新大久保にある食材店やインターネットなどで購入できます。エグシ(メロンのような野菜の種)などの珍しい食材を見て、難民の方が「どこで手に入れたの!?」と驚き、喜ぶ姿が見られるようになりました。

栄養面でのバランスも、食料支援の課題の1つでした。長期保存可能な食材は炭水化物に偏りがちで、タンパク質やビタミン、新鮮な野菜や果物が不足してしまいます。ツナやサーディン缶など、これまでの定番食材だけでなく、「魚の水煮缶」や「うずら卵」、常温保存可能な牛乳など、タンパク質が摂れる食材の種類を増やしました。

また、新鮮な野菜や果物を調達するため、食品ロス削減に取り組む団体の「フードバンクTAMA」や困窮した方への食品提供を行う「あじいる」、企業(パルシステム連合会、神戸物産)との提携を進めました。これらの提供元から、定期的に野菜や果物、ハラル認証食材(イスラム教で食べることが許されていると専門家による保証がされた食材)などの提供を受けられるようになりました。

こうした食材は、事務所でお渡しするだけでなく、遠方に住んでいる、電車に乗るのが不安だ、などの声に対応するため、配送も行っています。

写真:企業から提供された野菜。

食材を渡す時には、母国ではどんなふうに調理するのか、難民の方との会話がはずみます。生のミニトマトを食べるのはあまり好まれない、大根は意外な地域(国)でも食されていた・・などスタッフにとっても日々様々な発見があります。提供できる野菜の種類が限られていることなど、まだ課題はありますが、難民の方が食材を受け取った時に見せる笑顔に、あらためて食べることの大切さを感じます。

こうした支援は、皆さまからのあたたかいご支援により難民の方々に届けることができています。JARでは引き続き、食を通じて難民の方が少しでも安心し、安らぎを感じてもらえるよう、支援を続けていきます。

また、食の支援以外にも、難民の方々お一人おひとりに向き合う支援を続けています。この冬は難民の方々へ以下のような支援を行うことができました。

この冬の支援(期間:2021年12月1日~2022年2月28日)

・事務所や収容所等での相談件数 148件
・電話での相談件数 893件
・シェルター提供人数 35人 (うち5名期間内に入居)
・物資の郵送数 189個(支援事業部・定住支援部の支援を含む)

この冬いただいたご支援

・ご寄付の総額:29,977,733円(1,206件)※下記を除く。
・古本でのご寄付(バリューブックス):630,844円(219件)
※ 冬の寄付の案内開始(2021年11月18日)から2022年2月28日まで。

いただいたご寄付をもとに、難民の方々への直接支援のほか、政策提言や広報活動など、当会の事業全体に取り組んでいます。あたたかいご支援に心より感謝いたします。

※難民支援協会の最新ニュースレター(vol.24/2022年3月号)はこちらから