活動レポート

日本に逃れた難民への支援で、スタッフが一番大切にしていること
JAR活動紹介インタビュー vol.1 【支援事業部:新島彩子】

難民支援協会(JAR)が日々の活動の中で大切にしていることとは何か、スタッフのインタビューでお伝えします。

第1回は、支援事業部マネージャーの新島彩子です。

【支援事業部とは】年間700人以上、出身国は50か国にわたる難民の方々を支援するJARの活動の中心です。8名のスタッフが在籍し(2022年2月現在)、難民の方一人ひとりへの支援を行っています。

日本での難民支援とは?

――はじめに、JARの支援事業部ではどのような方々を支援しているのか、教えてください。

紛争や人権侵害などの理由で、日本に逃れてきた難民の方々です。地域別では、アフリカ出身の方が6割と多いです。

日本に来た直後から、「難民申請の手続き方法がわからない」「住居や仕事を得る方法がない」といった状況に置かれるので、一人ひとりの相談を慎重に聞き取り、状況に応じて必要な支援を考えます。

難民申請や在留資格などの手続きは複雑で、一人で行うには難しく、支援や助言が必要です。難民申請を支援していただくために弁護士さんの紹介をすることもあります。

他にも、「食料がなくて困っている」「体調を崩したが病院にかかるお金がない」など生活や健康に関わることや、「日本語で何か郵送物が届いたが何かわからないので確認してほしい」「本国に残してきた家族を探してほしい」など、相談内容は多岐に渡ります。

現在はコロナ禍のため電話やメールなどでの対応が増えましたが、顔を合わせてじっくりお話を聞くことを重視しているので、感染防止対策を徹底して、西神田にある事務所で、対面での支援を行っています。

自分自身を否定され、傷つけられてきた人たち

――支援する際に大切にしているのは、どんなことですか。

難民の方々というのは、たとえば民主化活動をしたことや、性的マイノリティであること、国で禁じられている宗教を信仰していることなど、様々な理由から迫害を受けた経験を持っています。
「自分自身を否定され、傷つけられてきた人たちだ」ということが、接する上での大前提です。

そういう経験のある方々に、安心して自分のことを話してもらうというのは難しく、信頼してもらえる関係をつくることが、何よりもまず大事だと考えています。

信頼関係を築く第一歩は、その方がなぜ国を逃れなければならなかったのか、難民となった理由を私たちスタッフが理解することです。

しかし、難民となった理由は一人ひとり、とても複雑です。たとえば迫害についてよく知られている少数民族の方であったとしても、そのことだけではなく、実はさらに複雑な事情が絡んでいるようなこともあります。
知識や経験のあるスタッフでも、簡単に理解できることばかりではありません。初めて相談に来た方には、必ず1時間半から2時間くらいかけて、丁寧に聞き取りをします。

バイアスを持たず、「個別化」する

――聞き取りをする際には、どういったことに気をつけているのでしょうか。

話を聞く際に心がけているのが、一人ひとりの方を「個別化する」ということです。

馴染みのない言葉かもしれませんが、どういうことかと言うと、出身国、民族、性別など、なにか既存の枠組みを当てはめてその人に接してしまうと、必ずどこかにかけ違いが出てきてしまうんですね。

たとえば、ある程度経験を積んだスタッフだと、「この国出身の方だから、きっとこういう背景があるのだろう」とどうしても考えてしまいがちです。しかし、想定していた背景と異なることはありますし、先入観を持って接していることが相手に伝わると、信頼してもらえなくなってしまいます。

話を聞く私たちはまっさらな状態で、どこにもバイアスを持たずに、目の前にいる「その人」を受け入れるという態度が、信頼関係を築く上でとても大切になります。

どういう想いでJARに来たのか、どんなに日本で困難な状況であっても自分の国に帰ることができないというのは、どういうことなのか・・・いつも想像力をフル回転させて考えます。しかし、日本で生活している支援者である私たちが、難民の人のことを、その人自身の立場に立って理解することは、とても難しい。

他者を理解することを「他人の靴を履く」とたとえることがありますが、現在日本で支援をしている私たちが難民の人たちの靴を履くことはない、できないということを謙虚に受け止めた上で、彼ら・彼女らの靴を履こうとすることが必要なのだと考えています。

そのためには、経験を積んだことによる落とし穴もあると自覚し、自分の先入観を相手に押しつけていないか、常に自分を客観視しながら接することが大切です。

それから、一度信頼関係ができた人であっても、その方の人生をすべて知っているというわけではもちろんありません。

計画したとおりに支援が進まないことももちろんあるし、「その方について私たちが知っていることは、ほんの一部」という認識に立って支援していかないといけないと考えています。

支援の際には、「難民認定を得る」といった目標はあるものの、難民一人ひとりの本当のゴールがどこにあるのかは、支援をする私たちが決めることではないとも思っています。
色々な問題がこんがらがってしまっているのを、糸を一本一本ほぐして道筋を示し、難民の方が主体的に問題を解決していくのを後押しするのが、私たちの役割です。

(写真)支援事業部のスタッフから相談を受ける新島。
難民の方への支援の方針は、スタッフが単独で決めるのではなく、支援事業部の全スタッフで週に1回開く会議で検討し、決定しています。

難民の「安心」とは

――難民の方が気持ちの面で安心できるためには、どのような配慮が必要なのでしょうか。

平和で安全な日本で暮らしていても、「もしかしたら、日本にある母国の大使館職員が自分のことを把握しているかもしれない」と思ったり、たまたま同じ国の出身者と出会っても「母国では対立する関係の人だったかもしれない」という不安があったりと、難民の方には他人を信頼することが難しい事情があります。

だから、「せめてJARの事務所にいる間は、ここなら安全で、安心だと思ってもらいたい」と、いつも考えています。

特に、初めてJARを訪れる人には、最初から完全に信頼してもらうのは難しくて当然だと思います。
「JARは難民支援をしている団体で、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のパートナーです」と言っても、本当に自分のことを話しても大丈夫なのか、難民の方の事情を考えれば、いきなりJARを信頼したり、安心できるわけではありません。

今日初めて会う方に対しては、まずは「命の危険がある状況から逃れて、よくここまでたどり着きましたね!」ということが伝わるように心がけています。

事務所に入ってすぐ、受付をするフロントにいるスタッフやボランティアの方には、あたたかくウェルカムな雰囲気でいることをお願いしています。ドアを開けることにも不安を感じる方もいるので、事務所の入口のドアは透明なガラス張りにして、中の様子がわかるようになっています。

(写真)事務所の入口のドア。今は感染防止のため、事務所に来る時には必ず事前の予約をお願いしていますが、予約がない方が事務所に突然来た時でも、拒絶されたと感じてしまうことがないように、必ず中に入ってもらいお話します。

また、いくつも困っていることがあるような場合に、自分からすべて言える人ばかりではありません。カウンセリングの前後に待合スペースで雑談をしている時などに、ふと話してもらえることもよくあるので、雑談の時間もとても大切です。
オンラインではなかなか難しいことですが、体調や経済状況に変化はないか、顔色や服装などにも注意するようにしています。

信頼関係のためには情報の守秘も非常に重要です。他の人もいる待合スペースではお名前で呼ばない、個人情報はセキュリティが保護されたデータベースで管理する、といったルールを徹底しています。

――難民の方とスタッフの関係性については、どう考えていますか。

相手を尊重し、安心してもらうこと=「友だち」になる、個人的な関係を築くこと、という方針はとっていません。支援をするということから生じうるリスクを避けるため、守秘義務や、「個人的な関係を持たない」「いかなる⾦銭的、性的、その他の利益を搾取してはならない」など搾取の回避・禁止などについて定めた『行動指針』を設けています。

――スタッフは、辛い気持ちに寄り添わなくてはならないことも多いと思います。

難民認定の結果が出るまでには平均4年以上かかるなど、先行きが見えない生活から怒りや悲しみの感情が高まり、それをスタッフにぶつけられることもよくあります。

何らかの法的解決を得られるまでは、在留資格がない仮放免のまま、難民申請をしながら日本に留まることしかできない方々もいます。その間に、残念ながら母国にいる家族を亡くされるような方もいます。
その辛さを表現される方に対して、私たちスタッフもただ傾聴するしかないこともあり、支援する側ももどかしさを感じます。

今の日本の難民認定制度では、難民として認定されるべき人が認定されていません。しかし、当事者である難民の方々は、政府への怒りや、自分の母国での人権侵害が世界で知られていないことへの嘆き、悲しみなどがあっても、声をあげることは難しい状況があります。

JARが難民への直接の支援だけでなく、日本社会に対して難民問題を伝える発信をしたり、政府に政策提言をしていることは、難民を保護するための根本的な取り組みとしてとても重要です。

難民の方には、日本の難民認定制度の現状について説明するとともに、JARの取り組みについても伝えています。「ありがとう、心強いです」という反応もあれば、「もっと政府や一般の人々に訴えてほしい」など、難民の人も様々な意見を持っています。

「弱い人」ではない

――支援を行う中では、行政や地域の病院などとの連携も重要だと思いますが、そうした関わりにおいて意識していることはありますか。

「日本の社会の中に難民も暮らしている」ということが、まだ広く認識されていないと感じることが多くあります。
自治体など行政機関の方からも、「難民の方は初めてなので何もわかりません」と言われたり、ネガティブな反応を示されることもあります。難民である前に一人の人間、一人の住民であるというところから対応してもらえるよう、理解を広げていくことが大切だと感じます。

―― 一方で、メディアなどで難民について取り上げられることが増え、関心を持つ人が増えてきているようにも感じます。もし一般の方が難民かもしれない人と出会った時にはどのような態度で接するのがよいのでしょうか。

難民の方の中には、自分が難民であることや思いを知ってほしいという方もいますが、多くの方は「自分が難民であることを話すのは最後にしたい」と思っているはずです。
何か助けになりたいと思ってくださったとしても、まずはご本人が話してくれるのを待つことが大切だと思います。

難民と言うと、どうしても「弱い人」とか「困っている人」というイメージを持たれているかもしれません。実際に日本では弱い立場に置かれてはいるのですが、決して「弱い人」ではありません。
難民の方と接していると、それぞれの母国では信念を持って闘っていた人や、困難を抱えながらも生き抜いてきた、強さも持ち合わせている人たちだと感じることが多いです。

難民の方の言葉にスタッフが勇気をもらうことも多々あります。ある難民申請中の方は、「今後もまだ困難が続くけれど、JARによいニュースを届けられるよう、希望を失わず闘い続ける。かつて私の人生は白黒だったけれど、JARに来てから、あなたたちがカラフルにしてくれた」と力強い言葉をくれました。

「JARに来て久しぶりに笑った」と言われることがよくあるので、難民の方と話す時は、クスリとでも笑ってもらえるようにもしています。

支援現場の日常では、持病のため甘いものを制限されている難民の方が、こっそり食べようとしてスタッフに見つかりしかられていたり、いつも「新島さんも長生きしてください」と言ってくださる難民の方がいて、嬉しいけれど「私のこと何歳だと思ってるんだろう…」と思ったり(笑)、のどかなひとコマも多くあります。

一人ひとりが持つ強さやあたりまえの日常を損なわないよう、支援することをこれからも大切にしていきたいと思っています。

新島彩子/JAR 支援事業部 マネージャー
大学卒業後、民間企業に就職したのち、2001年にJARに参加。約5年間生活支援スタッフとして勤務する。その後は民間企業に勤務しながら理事として活動に携わり、2016年12月より現職。