活動レポート

出入国管理及び難民認定法等の改正に関する、難民支援協会の見解

    2019年春からの外国人労働者の受け入れ拡大に向けて、2018年11月2日に「出入国管理及び難民認定法 及び 法務省設置法の一部を改正する法律案」(以下、入管法等改正案)が閣議決定されました。日本にはすでに約128万人の外国人が働いており、そのうち就労を目的とした在留資格(専門的・技術的分野の在留資格)をもつ人は18.6%しかいません。新たな在留資格の創設によって、この矛盾した労働市場の実態が改善され、外国人労働者を正面から受け止めるための議論が進むことを期待します。
     
    加えて、外国人の受け入れを拡大させるにあたっては、労働力ではなく「人」として受け入れるという視点が必要です。認定NPO法人 難民支援協会は19年にわたる日本に逃れてきた難民への支援活動の中から、外国人である難民が住民として日本で暮らしていく上での困難を見てきました。その原因を一言で表すと、外国人を生活者として受け入れる上での地域の体制・仕組みの決定的な不足です。日本語を学ぶ機会に乏しく、最低限の生活保障も限定的で、医療機関や保健センター、子どもの学校手続き等様々な場面で円滑にコミュニケーションをすることにも困難を抱えます。結果として日本社会に参画する機会や最低限の行政サービスへのアクセスが制限され、日本社会の中で周辺化されてしまいます。
    今回の入管法等改正を契機に、従来日本社会が抱えてきたこれらの矛盾を、抜本的に解消する必要があると考えます。外国人が社会の中で疎外されることを防ぎ、多様性のある共生社会を築くために、難民支援協会は、外国人に関する基本法、当事者の声を聴くこと、難民認定申請者の保護について、改めて提起します。

    1. 外国人に関する基本法の必要性について

    単なる労働者ではなく「人」を受け入れる以上、権利を保障することや、住民として統合されるための施策が行われることが必要です。しかし、どのような「共生」を行い、どのような取り組みをするのか、国や自治体、民間等の責任を規定する法律が日本にはありません。
    実際に、難民申請者が日本で生きていくためのセーフティーネットや日本語教育の必要性を訴えても「基本法がなく政府の責務ではない」という理由で認められず、十分な予算もつけられないという現実に私たちも直面してきました。
    今回の入管法等改正においても、滞在する外国人の「在留管理」の観点が強く、「共生」という観点が不足しています。外国人に対する「管理」の視点のみが強調される現状を改め、「共生」の在り方を定める法律を策定する段階に来ているのではないでしょうか。
    また、入国管理局を再編し、「出入国在留管理庁」を設置するとされています。しかし、日本で生まれ、教育を受け、働き、結婚し、時には病気になり、老い、そして人生を終える―それぞれの段階で外国人だからこそ経験する困難があり、出入国「管理」とは別の視点から、分野横断的な外国人に関する諸施策を省庁横断的に統括する組織が必要だと考えます。
    以上のような問題を踏まえ、以下の要項を含んだ基本法の策定が有効です。

    • 外国人と共に生活するにあたっての基本的な理念
    • 外国人の権利の保障
    • 外国人に対する差別や人権侵害を防ぐための仕組み
    • 外国人施策の責任の所在と予算の確保
    • 外国人施策を担う組織の設置
    • 施策の立案において当事者の声を反映させるための仕組み

    2. 当事者の声を反映させる仕組みについて

    障がい者権利条約を作成する過程で使われた「私たちぬきに私たちのことを決めないで」という言葉は、今回の法改正でも当てはまります。この間行われている入管法等改正に関する議論において、既に日本国内で生活している「外国人」の声を聴いた形跡が見当たりません。法務省が今年中をめどにまとめている「外国人材の受入れ・共生のための総合的対策(検討の方向性)」の中には「国民及び外国人の声を聞く仕組みづくり」という項目がありますが、声を聴くだけにとどまらず外国人自身の視点から施策を提案、実施を検証する機会が確保されることを望みます。
    特定の政策に当事者の声を反映させる仕組みとして、例えば国家行政組織法第8条や、内閣府設置法第37条及び第54条に基づく委員会の設置が挙げられます。これらの法律に基づいて設置された障害者政策委員会では、当事者や支援者も含めた委員による障害者基本政策の策定や調査・審議を行っています。外国人に関する政策についても、同様の委員会の設置により、共生政策の策定や検証、当事者の声を含んだ実質的な議論が行われることが望ましいと考えます。

    3. 難民認定申請者の保護について

    内閣府が今年6月に発表した「経済財政運営と改革の基本方針 2018」、いわゆる「骨太の方針」には「法務省、厚生労働省、地方自治体等が連携の上、在留管理体制を強化し、不法・偽装滞在者や難民認定制度の濫用・誤用者対策等を推進する」との文言が入っています。「難民申請を繰り返すケース」や「偽装難民の増加」に焦点を当てた報道も目立ちます。しかし、「偽装」等の問題はこれまでの外国人労働者政策の問題を反映したものでもあり、また、保護を必要としている難民は存在しています。

    • 難民申請の審査は高度な専門性が必要とされ、安易に「濫用・誤用」と判断することはできません。
    • 複数回申請者の中にも、現に難民認定や人道配慮による在留特別許可を受けた人がいます。
    • そもそも日本の難民認定審査は極めて厳しいものです。2017年の認定率(認定数/取り下げを除いた審査件数)はわずか0.2%であり、難民認定制度運用の見直し状況検証のための有識者会でも「手続過程や難民該当性判断の在り方を含む制度全体にわたる改善方策」の必要性が指摘されています。 

    難民にとっては本国への送還は命の危機を意味します。難民の人は、就労ではなく保護を目的に来日します。彼らに対して、生活をする上で必要不可欠な体制を整えていくことは、外国人政策の基本的な理念を示す重要な施策であると私たちは考えています。

    参考

    おわりに

    難民支援協会は、日本に逃れた難民への支援を通じて日本社会における外国人の受入れに向き合ってきました。事務所を訪れる年間700人の難民の人たちを通じて、一人一人が日本社会に生きる「生活者」であることを実感します。
    難民に限らず日本で暮らす外国人の数は増え続けています。労働者としての側面が強調されがちですが、外国人である以前に「人」であり、共に社会を構成するメンバーであるという視点が欠かせません。
    一方、外国人をめぐる管理の視点は強まっており、難民保護においても濫用・誤用対策の悪影響が出ています。また、地方入国管理局や入国者収容施設(入国管理センター)での収容状況についても、収容の極端な長期化や医療アクセス等の処遇悪化が指摘されています。
    今回の法改正を契機に、様々な検証・議論を踏まえて外国人の権利が、制度的として保障されることが重要です。その際には、課題や管理という点だけに目を向けるのではなく「共生」していくことのできる豊かな社会づくりへの前向きな理念が示されることを強く望みます。

    参考資料
    1. 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針」(2018年6月15日)
    2. 法務省入国管理局「出入国管理及び難民認定法 及び 法務省設置法 の一部を改正する法律案の骨子」(2018年10月12日)
    3. 法務省「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策検討会」(2018年8月31日)

    ※ リンク先におけるURL変更により、一部URL修正(2022年1月)