トルコから日本に逃れてくる難民が多いと聞くと、驚くでしょうか。トルコ・イラン・イラクなどにまたがって居住するクルド民族は、それぞれの国で長らく迫害されてきました。迫害の度合いは国や政権によって異なりますが、トルコではクルド民族が暮らす村が焼き討ちにあったり、言葉や音楽など独自の文化が禁止されたりした1990年代から、多くが国外へ逃れるようになりました。実は、日本とトルコは120年以上にもおよぶ友好の歴史があり、現在は査証(ビザ)がなくても両国の往来が可能です。そのような背景から、逃れる先として日本を目指すクルドの人がいます。
日本社会で孤立しがちなクルドの女性たち
クルドの女性たちは家事や育児を担うことが多く、日本でも家で過ごす時間が長い傾向にあります。職場や学校でのやり取りのなかで日本語を覚え、ネットワークを広げていく夫や子どもと比べて、日本社会と接点を持つ機会がなく、孤立してしまう人もいます。夫に在留資格がない場合、それは特に深刻です。日本に逃れたクルド人のなかには、難民申請は受け付けられたものの、在留資格が与えられず、不法(非正規)滞在者となる人もいます。その結果、入国管理の観点からは取り締まり(収容)の対象となってしまうのです。入国管理局は、逃亡の恐れがないなどの理由で「仮放免」を認めることもありますが、それらは入国管理局の裁量に委ねられています。そのため、夫が突然収容され、子どもたちと取り残されてしまう事例も少なくありません。
「オヤ」で紡ぐつながり
JARでは、クルドの女性同士のつながりを強化し、日本社会のなかで自立の一歩を踏み出せるよう、2009年より伝統的なレース編み「オヤ」を使った取り組みを行っています。オヤはクルドの女性たちがスカーフの縁飾りなどに使うレース編みの技術で、母から娘へ代々受け継がれています。当初はオヤを編むワークショップを開催することで、クルドの女性たちが定期的に集う機会をつくり、横のつながりを強化。ワークショップがなくても日頃から連絡を取りあい、相談しあう関係ができました。
最近では、地域やJARのイベントで彼女たちの作品を紹介し、日本で暮らすクルド難民の存在や日本で直面している課題について、日本社会に知ってもらうきっかけにしています。色とりどりの糸で繊細に編まれたオヤは好評で、作品への評価が彼女たちの自信にもつながっています。なかには、日本の人にもっと喜ばれる作品を編みたいと、ファッション誌を読んで研究するほど熱心な人も。さらに、自主的にグループを立ち上げ、地域のイベントで料理を振舞うなど、力強い動きもうまれています。
異国の地で自立して生活することは簡単ではありません。地域の日本語教室に通ってみる、学校の先生と連絡を取る、病院に行くなど、自力で達成することを少しずつ積み重ねていくことが大切です。JARはワークショップの開催や日々の相談を通して、その過程に寄り添いサポートしていきます。
※ 当事業は現在実施していません。
(2020年2月5日追記)