2009年4月以降、それまでの約半数の難民申請者が、唯一の命綱ともいえる政府の生活支援金(保護費)を受給できなくなっていた事態を受け、民間支援団体は共同キャンペーンを実施し、難民の最低限の生活を支えるための生活費を支援しました。 キャンペーンへのご協力の呼びかけに応え、多くの皆さまから本当にあたたかいご支援をいただき、372人の難民の方々へのべ854件の支援を続けることができました。相談に訪れた難民に対してはホームレスの方を生み出すことなく住まいを提供したり、食べ物や食糧品・日用品なども支援することもできました。本当にありがとうございました。 キャンペーンは、保護費支給の基準が4月以前のものに一部回復したことが確認されたことから、当初予定していた9月末をもちまして終了いたしましたので、ここに、キャンペーンの実施・会計報告書をお届けします。 その一方、課題はいまだ残っています。引き続き、よりよい難民受け入れの実現に向けて努力してまいりますので、今後ともご理解・ご関心をいただけますようお願い申し上げます。 <難民支援緊急キャンペーン実行委員会> 社団法人 アムネスティ・インターナショナル日本 カトリック東京国際センター 全国難民弁護団連絡会議 社会福祉法人 さぽうと21 社会福祉法人 日本国際社会事業団 社団法人 日本福音ルーテル社団 特定非営利活動法人 難民支援協会(事務局) |
目次
0. 背景
1. 会計報告
2. 実際のケース事例
3. キャンペーンから見えたもの -成果と今後の課題-
4. お問い合わせ先
5. 参考資料
0. 背景
ここ数年、日本に難民として保護を求める人の数が顕著に増加しており、2008年は、難民申請者の数が日本初となる1,000人を突破し、1,599人にまで達しました。その急増の影響として、難民申請の審査期間が長期化しています。しかし、その間、難民申請者の多くは、就労が認められず、国民健康保険や生活保護などに加入することもできないなど、困窮した生活を余儀なくされています。
日本政府からは、難民申請者への公的な生活支援として、外務省を通じ、保護費の支給をしています。保護費は、困窮した申請者にとって、最低限の生活を維持するための「命綱」として大きな存在でした。
しかし、難民申請者の急増と申請期間の長期化の結果、保護費を必要とする申請者が増加したことによって、保護費予算が不足するおそれがあるとして、今年4月、外務省より、支給対象者に優先順位をもうけるとの通知がなされました。そのため、100人以上、支給を求める人の約半数が保護費を打ち切られるという事態に陥りました。
1. 会計報告 (4月~9月)
■収入計:40,057,485円
寄付者 | 金額(円) |
一般 | 22,807,485 |
連合 雇用と就労・自立支援カンパ | 2,500,000 |
自立生活サポートセンター・もやい | 1,000,000 |
世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会 | 2,000,000 |
日本アムウェイ合同会社 | 1,050,000 |
日本カトリック司教協議会カリタスジャパン | 5,000,000 |
立正佼成会一食平和基金 | 2,700,000 |
難民支援協会 | 3,000,000 |
合計 | 40,057,485 |
*100万円以上の法人からのご寄付について記載
*なお、10月に、在日米国商工会議所より100万円のご寄付をいただきました。
そのほか、お米、カップ麺、タオル、歯ブラシなどの物資の寄付もいただきました。
ご寄付を下さった皆さまには、この場をお借りして心より御礼申し上げます。
■支出計:30,484,981円
費目 | 金額(円) | |
難民への支援金 | 交通費 | 50,460 |
住居費 | 1,359,222 | |
生活費 | 25,281,210 | |
その他 | 4,000 | |
小計 | 26,694,892 | |
支払手数料 | 43,470 | |
郵送費 | 17,050 | |
旅費交通費 | 23,820 | |
管理費(寄附金の10%) | 3,705,749 | |
総計 | 30,484,981 |
・執行対象者総数:372人(内、家族ケース38件/うち、保護費を切られたケース108人)
・執行件数(のべ):854件
*ご寄付の10%は、専用電話開設・通話料、領収書発行、会計・事業報告書作成・送付等の事務局運営費と して活用させていただいています。
なお、収支がプラスとなっていますが、後述のように、現在も保護費支給までに数ヶ月の待ち時間があるため、困窮度が高い人、裁判中の人に対しては継続的に支援を行っており、残高はこれまでと同様、支援に使わせていただきます。
2. 実際のケース事例
<ケース1>
アフリカ出身の女性マリーさん(仮名・30歳代)は、2005年に政治的意見を理由に迫害をおそれて来日。日本には知り合いもいませんでしたが、最初にビザが出た日本に逃れるしか手段がありませんでした。来日直後に出産し、シングルマザーとなりました。難民申請の手続きがあることすら知らず、ひっそりと生活していた2008年、偶然出会った人から聞き、難民申請を行いました。
申請の結果を待っている間、保護費を受けて生活していましたが、2009年5月、母親への保護費支給が突然停止されました。子ども分の保護費だけでは2人が食べることすら難しく、さらには家賃も2ヶ月滞納しており、大家から再三の催促を受けました。そのときの思いを「本当に途方に暮れた」と語っています。「今のままでは、子どもを育てていくことが本当に難しい。子どもを預かってもらえるところはないし、働くこともできず、どうしたらいいのでしょうか。保護費の支給が厳しくなっても『子どもは支援の対象』と説明を受けました。確かに子ども分の支援はもらいました。でも、1日あたり750円の生活費と家賃の半額だけ。結局家賃は払えません。それでは、本当の意味では子どもを保護していることにはならないのではないでしょうか。」と、ストレスでとても疲れた顔をしたマリーさんの姿を忘れることはできません。
このような状況のため、キャンペーンでは、母親に対して生活費を3ヶ月間に渡って支援しました。ようやく政府からの支援再開の目処がたった頃、彼女がキャンペーン事務局である難民支援協会の事務所を訪れたときには、「毎月の3万円は本当に大きな支援でした。この支援金がなかったら、この間、どうやって生き延びられたか。本当にありがとう。」と、言っていました。
<ケース2>
東南アジア出身の夫婦から相談がありました。妻のルルさん(仮名・30歳代)は妊娠4ヶ月ですが、肝臓に疾患があり、その影響で心臓にも影響が出ているそうです。幸い病院の理解があり、何とか通院はできていましたが、未払いの医療費がかさんでいるため通院を続けることを躊躇していました。ルルさんは、「RHQ(外務省から保護費の支給等を委託されたアジア福祉教育財団難民事業本部)に申し込みをしたときに、『保護費支援が再開されるまで時間がかかるので、それまでの間は、他の団体に助けてもらってください』と言われました」と話します。しかも、自身の健康状況が胎児にも影響しているので、精密検査を医者に薦められていますが、まだ検査できていないとのことでした。しかし、夫婦は現在失業中で、食糧を買うお金にも困っていました。また、保険料が支払えないという問題にも直面していました。そのため、夫婦への1か月分の生活費を緊急キャンペーンから支援しました。夫婦は「これでご飯が買えます。保険料も支払ってまた病院へ行くことができるので本当に助かります」と言っていました。
5月末の時点で、キャンペーン事務局である難民支援協会に訪れた人のうち、約100人が家賃を滞納し、退去を勧告されており、20人がホームレスに陥っていました。このような事態を受け、キャンペーンでは、NPO法人ワーカーズコレクティブぽたらかの協力のもと、7月からシェルター運営に着手し、のべ23人のホームレス状態に陥った難民申請者に住居を提供しました。それ以外にも、個人の方や教会などから住居のご提供にご協力いただいたことで、困窮した申請者に路上生活を強いることなく、キャンペーン終了までなんとかこの緊急事態を乗り切ることができました。
また、東京およびその近郊からの相談のみならず、名古屋、大阪などの遠方からも多数の相談が寄せられました。地方では、保護費打ち切りの問題に加え、不況のため就職先を見つけることが東京近郊以上に難しく、支えあう難民コミュニティや支援団体が少ないといったさまざまな理由で、より一層困難な状況におかれています。そのため、愛知県、群馬県などに訪問して相談会を開き、支援も行いました。
*そのほかの事例については、キャンペーンホームページでもご報告しております。
3. キャンペーンから見えたもの -成果と今後の課題-
キャンペーンの第一の成果が多くの難民申請者の最低限の生活が維持されたことであることは言うまでもありませんが、政府への働きかけをする中で、より良い難民保護体制の構築に向けた包括的な議論するための重要な基盤を作ることができたことも大きな成果であると認識しています。特に、関係省庁・機関と定期的な話し合いの場を持つことができたことは、私たちによって重要な進展でした。また、限られた支援金で何とか申請者の住居・生活を維持しようと工夫する中で、様々な企業・団体・個人の皆様からシェルター提供や食料・生活必需品の支給など多岐に渡るご支援をいただきました。さらに、この取り組みを多くのメディアに共感を持って取り上げていただいたことで、市民社会における難民問題への関心も高まりました。このような皆さまのご理解とご協力が、今後、更なる支援と理解の輪を広げ、より良い難民保護体制に向けた議論を進める中で、強力な後押しとなることを確信しています。
キャンペーンは2009年9月末を持って終了いたしましたが、難民申請者が置かれた不安定な状況が解決したわけではありません。キャンペーンによる政府への働きかけの結果として、保護費の支給要件は緩和され、昨年度以前と同様に、困窮している申請者は保護費の申請をすることができるようになりました。しかし、保護費が支給されるまでの待ち時間は2ヶ月から4ヶ月と非常に長くなっており、「緊急人道支援」としての役割を果たしているとは言いがたい状況にあります。
そのため、支援団体には依然として保護費の支給を待つ多くの申請者が相談に訪れています。また、日本で保護を求める難民の数は増加の一途を辿っており、来年度以降、保護費が再び枯渇するという事態も起こりかねない状態です。そのような事態を防ぐためには、より持続可能で包括的な難民保護制度の実現に向けた議論を日本社会全体で進めると同時に、政府支援のギャップを埋める民間の支援活動の継続が不可欠と考えています。
今後とも皆様のご理解とご協力をよろしくお願い致します。
4. お問い合わせ先
難民支援緊急キャンペーン事務局(特定非営利活動法人 難民支援協会)
〒160-0004 東京都新宿区四谷1-7-10 第三鹿倉ビル6F
TEL:03-5379-6001 FAX:03-5379-6002
E-mail:info@refugee.or.jp
http://www.refugee.or.jp/
5. 参考資料
1. キャンペーンご協力団体一覧(ページ後半をご覧下さい)
2. キャンペーンの活動が取り上げられたメディア掲載一覧
3. 政府への働きかけ
・「難民申請者の生活保障のための措置を求める再申し入れ」(2009年5月12日)
・「難民申請者の生活保障のための措置を求める再々申し入れ」(2009年10月13日)
修正
2022.3.31 注釈1のリンク先(キャンペーンページ)が現在アクセスできないため、該当ページをPDF出力したものにリンク先を変更