課題の多くは、日本で働くとはどういうことかを難民自身が学び、その準備を行うことや、職場に慣れる機会を得ることで、雇用主と協力をして解決することができます。また、企業側もどういった課題が想定されるか、どう解決できるかが分かっていれば、みすみす貴重な人財が辞めていくのを見送る必要はありません。今回、JARでは難民と企業が、安心、安全に働き続けることができる職場環境をつくるために、5つのコンポーネントからなる就労準備プログラムを企画・実施しました。
取り組み1:日本の企業で働くとは?日本企業文化への理解を深める
日本の職場で働くとはどういうことか? 難民出身国での就労文化や習慣と比較して、違いを知り、これから働く日本企業文化への理解を深めました。また、職場で必要な挨拶、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)、タイムシートの打ち方、報連相(ほうれんそう)をロールプレイングと教科書を通じて学びました。実際に参加した難民は、「自力で勉強したが、授業を通じてみんなで違いを語り、理解しあう雰囲気があって良かった」。「自分たちがこれから働く際に必要とされる日本文化や、仕事に役立つことが勉強でき、日本人のみの職場でも仕事をする自信がついた」と話していました。
取り組み2:実際の企業を見学-現場を見て、感じて、学ぶ
座学で学んだ内容が実際に職場で使用されている様子を、難民自身が見て、感じることを目的に、会社見学を数回にわたって行いました。八王子市にあるものづくり企業を中心に、実際に経営者の方々に会社案内と仕事内容の説明をしていただきました。初めて外国人が来る、という企業もあり社員の方々も最初は緊張の面持ちでした。しかし、技術を見学した難民から「ものづくりのレベルが高く、やっていけるか自信を失った」とコメントがあると、「そんなことはないよ、まだまだだよ」と、徐々に笑顔で打ち解け、身振り手ぶりでコミュニケーションをとる場面もありました。
取り組み3:2週間のOJT-難民、企業双方が互いへの理解を深める
会社見学を行った企業のご好意で、2週間、OJT(企業内教育)にて、就労経験を積む機会をいただきました。これまで、座学と会社見学で見てきたことを、実際の現場で行わなくてはなりません。自ら仕事を体験し、お給料をいただく経験をすることで、理想と現実のギャップを知りました。また、企業では実際に外国人が入社したら、どんな課題や違いがあるのか、社員の皆さんが体感しました。「想像していた通り」、「いや、一緒にがんばれる」など、様々な反応がありました。また、難民と社員の皆さんが実際の業務を通じて、コミュニケーションを取ったことで、「事前にどんな準備をすればいいのか、どのようにすれば円滑に業務を行うことができるのか、それぞれが具体的にイメージを持つことができた」などと、お話しいただきました。
取り組み4:コミュニケーションを円滑に-社会で活きる日本語を学ぶ
就労の現場だけでなく、日本で生活をするうえで日本語は非常に重要です。特に、会社では、教科書どおりの日本語がそのまま通じるわけではありません。忙しく仕事を進める中で、「お忙しいなかちょっといいですか?」あるいは、「お疲れ様でした」など、日本語特有の表現がコミュニケーションを円滑にします。そこで、場面、場面で期待される日本語をロールプレイを通じて勉強しました。授業初日には、自己紹介を日本語で元気よく行うことを学びました。面接でも、入社後も、日本語で笑顔で自己紹介ができることは、非常に重要です。
取り組み5:経営者への説明-難民への理解を深め、双方が安心して働くために
やる気がある難民はぜひ受け入れたい、そういう企業は少なくありません。しかし、そうした企業が実際に難民を受け入れるためには、難民がおかれた状況を知り、受け入れ体制を整えるなど、難民への理解が大変重要です。JARでは、啓発活動を兼ねて、難民雇用に興味を持ってくださっている企業をまわり、状況や、就労に当たっての課題(例えば、引越しや交通費など)を説明。難民が安心して働き続ける環境になるよう取り組んでいます。経営者からは、「難民が置かれた状況を知ったことで、ぜひ自分のところで夢をかなえてほしいと感じた。頑張ってほしい」、というコメントをいただきました。
自立の道を切り開くために
プログラムには、10名が参加し、そのうち2名が企業から内定をいただき、すでに1名が働き始めています。今回の取り組みでは、そうした実績以上に、ある難民のコメントが印象的でした。「日本に一年以上住んでいるが、友達もできなかったし、家族もおらず、一人ぼっちで嫌なことばかりだった。最初は、このプログラムに参加することも怖かったけれど、今は、このクラスが生きがいになっている。暗闇に光が差し込んだようになった」。
日本で自立の道を切り開き、歩き始めるには様々な困難があります。しかし、準備するきっかけさえあれば、難民は自分たちで問題を解決することができます。今後、就労準備プログラムのようなサービスを通じて、一人でも多くの難民が自分自身の持っている力を発揮し、日本で自立した生活を送ることができるようになってほしいと思います。