難民支援協会(JAR)は、2024年7月に25周年を迎えました。
1999年、日本に逃れてきた難民の「苦渋を傍観するにたえず、同じ人間として支援したい」との想いで設立し、机一つの小さなオフィスからこの活動は始まりました。
25年間可能な限り難民の方へ支援を続け、24年6月時点では、年間約70か国・約1,000人に、過去最多となる9,500件以上の支援を行う規模となりました。
ここまで歩み続けることができたのは、活動を支えてくださる支援者の皆さまのおかげです。
世界でも日本でも、難民を取り巻く状況はますます深刻さを増しています。JARが少しでも日本に逃れてきた難民を救う力となれるよう、これからもご支援とご協力をお願いいたします。
20周年からの5年間の歩み
2019年度
(2019/7~2020/6)
■ JARの取り組み
- [2019年9月] 「難民アシスタント養成講座」開催累計40回。受講生は3,000人以上に。
- [2020年1月] ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」の写真展を開催。
- [2月頃] コロナ禍での支援体制の構築へ。事務所の開所時間は縮小するものの、開き続けることを決断。
- [3月] コロナ禍による難民の生活への影響が次第に表面化。社会の中で特に弱い立場にある難民の方々が、より深刻な状況に追いやられてしまうことから、難民支援の呼びかけを実施。
- コロナ禍のため、就労準備日本語プログラムはオンラインで継続。しかし、今まで以上に難民が仕事を見つけづらい状況となる。社会との接点の激減など、難民の方にとっての影響はその後長引くこととなる(こちら p.9参照)。
■ 国内外の動き
- 2019年6月、大村入国管理センターで被収容者が飢餓死。7月、東日本入国管理センター(牛久)で被収容者による過去最大規模のハンガーストライキが起こるなど、収容問題に関する出来事が相次ぐ。(参考 / 参考)
- [10月] 入管庁「送還忌避者の実態について」公表。大村入管での死亡事件に関する調査報告書公表。
- [10月] 第7次出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」設置。
- [12月] 第1回「グローバル難民フォーラム」開催(スイス・ジュネーブ)。
- 新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大。入国規制も導入され、20年3月頃より、日本でも新規に難民が入国することはほぼなくなる。
- [2020年1月] 旧ソ連出身の無国籍の男性について、難民側勝訴判決。JARでも来日当初より支援を行ってきた。(参考:「約10年支援してきた無国籍の方の勝訴。『地球上で行き場を失う』東京高裁 難民と判断」)
- [6月] 「収容・送還に関する専門部会」による報告書「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」公表。「送還停止効」の一部例外など、2024年6月全面施行の入管法改正につながるもの。(参考:JAR 同報告書に対する意見 )
2020年度
(2020/7~2021/6)
■ JARの取り組み
- コロナ禍での支援を継続。(参考:コロナ禍での難民の方の抱える不安に関する記事)
- [2020年8月] 記事「難民・難民申請者を送還するということ」掲載(2023年3月改訂)。
- [11月] 「オンラインで日本の難民を支援!国境を越えた文化祭」をJARボランティアメンバーにより企画・実施。
- [2021年2月] 入管法改正案に対する意見書発表。
- [3月] 「#難民の送還ではなく保護を」キャンペーンを開始。法案の問題点などをまとめ、SNSを中心に発信。旧Twitterで東京のトレンド入り、著名人からの発信があるなど、大きな賛同を得る。
- [6月] JARの新しいビジョン・ミッションを策定。「難民の尊厳と安心が守られ、ともに暮らせる社会へ」の新ビジョンを団体内や多くの方と共有し、活動のさらなる歩みに。
■ 国内外の動き
- [2020年10月] 国連・恣意的拘禁作業部会による意見書。日本の入管収容は恣意的収容にあたり、国際法違反であることを意見書にまとめ、日本政府に対し、必要な措置をとるよう求めたもの。
- [2021年] 難民条約発効から70年、日本の難民条約加入から40年。
- [2月] 入管法改正案が閣議決定、国会審議へ。法案は、3回目以上の難民申請者の送還が可能となるなどの規定を含むもの。国内外からこれまでになく高い関心が集まる。
- [2月] 「難民等の保護に関する法律案」が議員立法として国会に提出。難民認定に関する規定を独立させ、難民等の権利利益の保護や国際社会の取組に寄与することを目的とした法案(その後廃案)。
- [3月] 名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性が死亡。
- [4月] 入管法改正案に関するUNHCRの見解、発表(参考:一部サマリー)。
- [5月] 入管法改正案が取り下げられる。
- [5月] 2月に発生したミャンマーでのクーデターを受け、入管庁は、本国情勢を踏まえた初の対応として在日ミャンマー人への「緊急避難措置」を開始。
2021年度
(2021/7~2022/6)
■ JARの取り組み
- 長引くコロナ禍で制限の多い活動が続くも、オンラインでの相談や郵送での物資支援、難民への新型コロナワクチンの接種などコロナ禍での支援のあり方を工夫。(記事「難民の方々にとって『食べること』とは~心も満たす食の支援~」)
- [2021年8月] 東京オリンピック・パラリンピック開催。来日選手等の庇護希望に関するメディア報道への懸念やお願いを発信。
- [8月] 「アフガニスタン出身者を含む庇護希望者への迅速な保護等を求める声明」発表(他2団体と連名)。
- [12月] 難民申請者への偏見を助長しうる入管庁資料「現行入管法上の問題点」に対し抗議を表明(他2団体と連名)。
- [2022年3月] 「ウクライナ難民の受け入れから考える ー より包括的で公平な難民保護制度とは」にて、出身国によらない包括的で公平な制度の確立を求め、意見表明。
- [5月] ボランティアメンバーによる実行委員会主催のチャリティラン&ウォークイベント「DAN DAN RUN 2022」を開催。会場での開催は3年ぶり。
- [6月] 『難民の報道に関するガイドブック』発行。
■ 国内外の動き
- [2021年8月] 入管庁とUNHCRが難民認定制度に関する協力覚書(MOC)を交換。
- [8月] アフガニスタン・タリバンが政権掌握。入管庁「本国情勢を踏まえたアフガニスタンの方への対応」を10月に公表。
- [12月] 入管庁「現行入管法上の問題点」公表。
- [2022年3月] 2月末、ロシアによるウクライナ侵攻。同情勢を受け、日本政府はウクライナ避難民の受け入れを表明。
- [5月] 「難民等の保護に関する法律案」を野党が提出(廃案)。
2022年度
(2022/7~2023/6)
■ JARの取り組み
- 2022年10月以降入国制限が大幅に緩和。翌23年に入りJARへの相談数が急増し、1月~6月は前年同時期の約6倍。ひと月で約600人が来訪する状況に。特に住居支援は約10倍と大幅に増加した。(参考)
- [2023年1月] 記事「補完的保護とは何か?」掲載。
- [2023年3月] 入管法改正案に対する意見書発表。「#難民の送還ではなく保護を」キャンペーンを再び実施。
- [3月] 「2022年(令和4年)の難民認定者数および「難民該当性判断の手引」の公表を受けてのコメント」発表。
- [6月] 難民の方々と共に企画した「世界難民の日」イベントを開催。
■ 国内外の動き
- [2022年8月] 5月の札幌高裁での判決を受け、トルコ国籍のクルド人が日本で初の難民認定。
- [11月] 国連・自由権規約委員会より日本政府に対し、難民認定率の低さへの懸念が示され、国際基準に沿った包括的な難民保護法の迅速な採択などを求めた勧告が発表。
- [2023年3月] 21年に続き、送還停止効の例外規定を含む入管法改正案が閣議決定、国会審議へ。
- [3月] 入管庁「難民該当性判断の手引」公表。
- [3月] 入管庁より22年の難民認定状況等が公表。難民条約に基づく日本での認定総数(1982年~)が1,000人を超えた。
- [4月] NPO法人なんみんフォーラム※「監理措置に関する意見聴取(2023年版)概要」、21年に続き、発表。(※JARも加盟の、国内難民支援団体によるネットワーク組織)
- [4月] 国連人権理事会特別報告者による共同書簡。入管法改正案の内容が「国際人権基準を下回る」とし「徹底的に見直すことを求め」たもの。
- [5月] 「難民等の保護に関する法律案」を野党が再提出(参議院での審議の後に廃案)。
- [6月] 紛争、迫害、人権侵害などにより移動を強いられた人の数が、22年末時点で1億人を突破とUNHCR発表。
- [6月] 入管法改正案可決・成立。
2023年度
(2023/7~2024/6)
■ JARの取り組み
- [2023年10月] 成立した改正入管法に関連し、政府が「施行規則」案を公表。JARではパブリックコメントにて意見を表明。
- [10月] 記事「難民申請者はどう生きてゆくのか?ー公的支援「保護費」の課題と生存権」掲載。
- [11月] 「支援現場は限界に近い状態」として支援を呼びかけ。
- [2024年1月] ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」から初の書籍『密航のち洗濯』が出版。7月、第46回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」を受賞。
- [3月] ヘイトスピーチに対する反対をSNSを通じて表明。
- [4月] 関東弁護士会連合会(関弁連)の弁護士有志と連携し、JARを法テラスの指定相談場所として難民申請者への弁護士による無料法律相談を本格実施。
- [6月] 『難民やLGBTQじゃなくて、「わたし」の話〜メタバース対談映像から考えるトークイベント〜』開催。
- JARの23年度の支援件数が過去最多に(9,535件)。
■ 国内外の動き
- [2023年7月] スーダン情勢の悪化を受け、入管庁「本国情勢を踏まえたスーダン人への緊急避難措置」開始。
- [11月] 国会で補正予算成立。難民申請者への公的支援「保護費」関連の補正予算が初めて盛り込まれた。
- [12月] 補完的保護対象者認定制度、開始。
- [12月] 第2回「グローバル難民フォーラム」開催(スイス・ジュネーブ)。日本が共同議長を務める。
- [2024年1月] 名古屋高裁にて3回目の難民申請を不認定とした処分を取り消し、難民認定するよう命じる判決。
- [3月] 23年における難民認定状況等が入管庁より公表。難民申請者数が過去2番目の多さとなった(13,823人)。認定数は過去最多に(303人)。ただし、認定された人の78%はアフガニスタン出身者が占める。(JAR 「2023年(令和5年)の難民認定者数を受けてのコメント」)
- [6月] 前年の国会で可決した改正入管法が全面施行。3回目以降の難民申請者等の送還が可能に。
※20周年までの歩みはこちらから、10周年まではこちらからご覧ください。
団体からのメッセージ
「本当に自由なんだ。映画を見ているみたいだ。」
あるスタッフは、隣を歩いていた難民の方が、街に輝くクリスマスのイルミネーションを見ながら、そうおっしゃったことを、鮮明に覚えています。
その難民の方はさまざまな暴力を受け、逃れるためにアフリカから来日。一度は難民申請が却下され、同国人などからの目におびえ大変な緊張状態で過ごす日々を10年近く送ってきましたが、ようやく在留資格を得ることができました。先ほどの言葉は、手配した住まいに一緒に向かう場面でのことです。法的に認められること、自由に外を歩けること、安心して暮らせる場所があること。そのようなことがすごく遠いものだったのだと感じました。これからは「彼の人生」を歩んでほしいと願わずにはいられませんでした。
日本に逃れてきた難民の「苦渋を傍観するにたえず、同じ人間として支援したい」との想いから1999年に設立した難民支援協会は、本日25周年を迎えました。設立以来、約8,000人の方々を支援し、母国を追われた難民が失った権利を回復できるよう活動してきました。支援を必要とする人が支援を必要とするときはしっかりと支えられるとともに、それぞれの方が持つ力を活かして社会の一員となることを目指しています。
ここまで歩み続けてこれたのは、私たちの活動を支えてくださる支援者の皆さまのおかげです。
これからも、どうか私たちの活動、日本に逃れてきた難民へのご支援と応援をお願いいたします。
ご寄付は財政的にはもちろん、日本での難民支援活動への応援と共感の気持ちを示していただいているものと大切に受け止めています。多くの方からさまざまなかたちで応援いただいていることを、難民の方々にも、社会に対しても可視化するものです。
この25年間、難民を取り巻く状況にはさまざま変化がありました。
日本で難民認定される人の数は昨年最多となり、認定を受ける人の国籍も多様化しています。日本に難民が逃れてきていることが広く知られるようになりました。
しかし、国際的に見れば難民認定の基準はとても厳しく、私たちが目指す難民保護に特化した法律や難民保護のための独立的な機関はまだ実現していません。今年6月には、難民申請中の方でも送還が可能になってしまう法が施行されました。
残念ながら、冒頭の方のように希望をもって一歩踏み出せている方はわずかと言わざるを得ません。それでも、あきらめずに一つひとつすすんでまいります。難民は、国籍国からの保護を求められず、多くが日本でも不安定な立場におかれます。寄り添い、声に耳を傾ける人がいなければ、より”見えない”存在になってしまう。難民を取り巻く状況は私たち自身/社会の問題でもある ー 皆さまにこの活動を知っていただき、ご支援をいただきたい理由です。
難民の方が増えている今、よりさまざまな方と協力したり対話しながら活動してまいります。難民の尊厳と安心が守られ、ともに暮らせる社会を、ぜひ皆さまと一緒に作りたいと考えています。
これからもご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。
2024年7月17日
難民支援協会 スタッフ一同