昨年秋から冬(2023年12月1日〜2024年2月末)の支援現場の状況をご報告いたします。この冬、支援現場は限界に近い状況でしたが、多くの皆さまにご寄付やボランティアを通じて協力いただき、支援を提供し続けることができました。
この期間、1,343人が事務所へ来訪者されました。1日平均で30人ですが、多いときには1日40人に上ることもありました。来訪者の大半は、日本にたどり着いたばかりで、大きなスーツケースとともに、様々な事情を抱えてJARに訪れます。数日から数週間をホテルなどで過ごし、JARにたどり着く頃には所持金がほぼ尽きてしまい、野宿を余儀なくされた方もいます。
「誰も頼る人がいない、どうしたらいいかわからない。助けてほしい」と声を震わせながら訴えてくる方もいました。待合室では、言葉が通じる人同士がつながり、情報交換をする場になることもありますが、基本的には一人ひとりが淡々と予約の時間を待ち、人の声が飛び交うことはあまりありません。子連れで相談にくる方がいるときは、無邪気な子どもの笑い声や泣き声が響き、一時的に場の緊張がほぐれることもありました。
日々欠かせないのは、宿泊先手配と食料などの物資支援です。宿泊先は155人に、物資の送付支援は99件行いました。宿泊先については、ニーズのある全員に提供することはできませんが、母子の方、未成年の方をはじめ、脆弱性が高い方を優先的に手配しました。野宿の方や調理ができない仮住まいの方には、果物やパン、レトルト食品などすぐに食べられる食料を、それ以外の方には、お米や野菜など含めて提供しました。12月末のホリデーシーズンには、ボランティアさんに手伝っていただき、クッキーなどのお菓子を小袋に入れたギフトを配布しました。
不安定な生活や母国でのトラウマ経験などで、心身の体調を崩す人も多くいます。「不眠に悩んでいる」「お腹が痛い」などの訴えを受け、医療機関への受診にもつなげました。医療機関への同行等は、50件以上に上ります。生活基盤の安定が期待できない状況では、すぐに症状の改善につなげることは難しいのが現実です。それでも、できる限り医療機関につなげ、症状の悪化を防ぐよう努めました。
衣食住や医療の支援と合わせて、難民申請手続きに関するサポートも欠かせません。日本の現状では、難民認定を得ることに希望を託すことは簡単にはできませんが、それでも、難民である人が難民として認められることを目指す法的支援はJARの支援活動の中核です。来日直後の方は、15日程度しか滞在できない在留資格「短期滞在」の場合が大半です。在留資格が切れる前に、難民申請を行い、最低限、有効な在留資格を切らさないよう、迅速な動きが求められます。
難民認定申請書類は、多言語で出入国在留管理庁のホームページに掲載されていますが、自力ですべてを埋めるのは容易ではありません。氏名、家族構成、学歴などの基礎情報に加え、23の質問が続きます。
難民かどうかを判断する重要な質問の一つに、「もしあなたが本国に戻った場合に、迫害を受ける理由は次のどれですか」とあります。自分自身の背景が「人種」「宗教」「国籍」「特定の社会的集団の構成員であること」「政治的意見」のどれに該当するかを理解し、チェックをしなけばなりません。
長年難民支援に関わる弁護士の駒井さんは、「日本に逃れてきた難民の方が皆、どこでどのように、難民申請ができるのか知っているとは限らない。難民審査を行う者は、プロでエキスパートでなければならないが、『プロの難民』『エキスパートの難民』はいない」と指摘します。つまり、難民が難民であることを証明することは非常に難しく、だからこそ、JARのような支援団体や弁護士などのサポートが欠かせません。
なお、法的支援については、難民支援に関わっていただける弁護士のネットワークを拡大すべく、ここ1年取り組んできました。詳細については、別途、「活動レポート」を通じてご報告いたします。
【この冬の支援実績】2023.12〜2024.2
- 事務所や収容所等での相談件数 970件
(法的支援や生活支援などを含みます。) - リモートでの相談件数 938件
(電話やメール、オンラインビデオ通話による相談・支援) - 医療機関への同行 50件以上
- シェルター・宿泊費提供人数 155人以上
(期間前からのシェルター入居を含みます。) - 物資の宅配数 99件
【いただいたご支援】
- ご寄付の総額 38,699,012円(1,411 件)
(冬の寄付の案内を開始した2023年11月15日から2024年2月29日まで。なお同期間にいただいた一部の大口寄付は除きます。)
いただいたご寄付をもとに、難民の方々への直接支援のほか、政策提言や広報活動にも引き続き取り組んでいきます。
クライアントの声
支援を受けた難民の方の声を紹介します。いずれもスタッフに寄せられたものですが、JARを支援してくださっている皆さまに宛てたものでもありますので、ぜひ紹介させてください。
「こんなに気遣ってくれて、ありがとう。行く場所も、食べるものも、希望もない、そんな感じで今日も1日を終えるところだったよ」
事務所に相談にいらしたこの日、誕生日だった難民Aさん。スタッフで寄せ書きをし、誕生日カードを渡したところ、少し照れながら話してくれました。日本に逃げてきた難民の多くは、誕生日を共に祝う家族や友人と離れ離れで孤独な生活を送っています。JARがその孤独を埋めることはできませんが、私たちは常に難民の方のためにあり、ここは安全で安心できる場であることを感じてもらえたらと思います。
「入国してからずっと支えてくれて、心から感謝しています。不安でいっぱいの中でいつもそばにいてくれて。いつか恩返しをしたいです」
できれば自分の足で立って生きたいが、支援に頼らざるを得ないーーそんな自身の状況を不甲斐ないと感じる人もいます。だからこそ、自分が支援できる立場になったら恩返しがしたい。そんな気持ちを持っている方は少なくありません。また、難民認定を待っている状況にもかかわらず、今、ここ日本で命があることに感謝し、そんな日本社会に恩返しがしたいという方も。支援ニーズを伝えるために、「支援される側」という難民の姿を伝えることが多いJARの発信ですが、一人ひとりの思いを改めてお伝えしたいと思います。
JARが始まって以来の来訪者の増加や多様なニーズの拡大を受け、この冬は私たちにとってもより一層厳しい季節となりました。現在、一時期のような来訪者の「波」は少し収まりましたが、今後も海外からの入国者が増えることが予想されるため、一息つける状況にはありません。
この冬を支えてくださった皆さまに感謝いたします。今後も、日本に逃れてきた難民を支えるために、JARへのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。