「難民」とは、紛争や深刻な人権侵害などで命の危険から母国を逃れてきた人のことです。日本にも助けを求めて逃れてきています。
紛争や軍事クーデターによる惨状や、危険を冒しても欧州を目指す人々のニュースは私たちに、難民に対する共感や何とかしたいという思いとともに、漠然とした不安や、現実の複雑さを突きつけるかもしれません。
しかし、想像してみてください。戦火に追われ故郷を離れることを。人権侵害から逃れられず恐怖のなか母国に留まらざるを得ないことを。難民問題とは、人の命や人権に関わる問題です。そのことを改めて考えるために、よくある質問をまとめました。
目次
1. 難民ってどんな人たちのこと?
難民とは、紛争や人権侵害などから自分の命を守るためにやむを得ず母国を追われ、逃げざるを得ない人たちのことです。
迫害の理由や出身国は様々で、その背景には、民主化活動に参加したことや宗教上の改宗をしたこと、性的マイノリティであるなど、一人ひとり違った事情があります。
経済的に困っていることは難民の要件ではなく、経済的に困窮する難民も多い一方、資産家や著名人であることから迫害を受け難民になる人もいます。家族や友人と日々の生活を送っていたのに、突然逃れざるを得ない状況に追い込まれた人もいれば、生まれた時から何年もずっと難民キャンプにいる人もいます。
2. 「難民」と「移民」って何が違うの?
様々な理由で、本来の居住地を離れて移動している、または移動した人々のことを「移民」と言いますが、「難民」はそうした移民のうち、命の危険などから出国を強いられ移動した人々です。
しかし、両者の境界は流動的であいまいとも言えます。移民の中にも、性的搾取などの人権侵害を受け、自分の意思とは言えない移動を強いられた人もいます。日本のように難民認定が厳しい国では、難民認定を求める申請をあえてせず、留学やビジネスの資格で滞在する人もいます。
また難民が主体性をまったく持たない存在とも言い切れません。難民にも、少ない選択肢の中でも、よりよい人生を生きていくため、子どもによりよい教育を受けさせるためにと、希望が叶う可能性が高い国や地域を目指す人もいます。
3. 難民はなぜ日本に来るの?
日本をあえて選ぶというよりは、逃げる先を探すなかで、最初に日本のビザ(入国のための査証)が下りたからといった理由が多いです。
言葉の面などで不安があっても、他の国のビザを待つ余裕はなく、日本行きを決心します。難民として逃れるためのビザはなく、他国へ逃れるには観光やビジネスなどのビザを取得し、たどり着いた先で難民申請をします。日本政府は新型コロナの感染拡大以前は海外からの観光客誘致に力を入れていたため、観光ビザが比較的出やすかったとも言われています。
日本に来てから難民認定が他国で類を見ない厳しさである(参考)ことを知り愕然とする人もいますが、あらためて他国へ行きたいと考えたとしても、ほとんどの場合、その選択肢はありません。危険のある出身国へ帰国するなどの方法で、ビザの取得からやり直す必要があるからです。
4. なぜ難民を助けないといけないの?
本来、自分の命を守るために逃れてきた難民を助けるのは、人の命や人権を守ることと同じです。
他国に助けを求めて逃げる権利は、日本も加盟する世界人権宣言や難民条約などの国際条約にも定められている、人として生きるための権利です。難民の命を守り、ともに暮らせる社会とは、どんな人にとっても安心して暮らせる社会とも言えます。
同時に難民問題は、一国では解決できないグローバルな問題です。難民を生み出す理由となる民族対立や政治体制などの背景には、先進国も無関係ではありません。しかし難民の多くを受け入れているのは、難民が生まれる国と同様に社会基盤が不十分な周辺の国々です。国際社会による負担・責任の分担が求められており、どう協調し、解決策を模索するのか、対応が問われています。
5. 難民は「不法入国」や「不法滞在」なの?
難民として認められれば安定した在留資格を得ることができ、また難民申請中でも、申請時に正規の在留資格があるなど、一定の条件を満たす人には在留資格が認められます。
しかし、命からがら逃れてくる難民の中には、合法的なビザやパスポートを持たずに入国せざるを得ない人もいます。こうした状況での「不法滞在」や「偽装書類による入国」は、緊急事態時であるがゆえの行動として難民条約で認められています。また、母国に送り返されれば命の危険がある難民を送還してはならないという国際法上の原則があり、申請中も含めて安定した在留資格が保障される必要があります。
しかし日本では、非正規に入国した人が空港で難民申請を希望しても、ほとんどの場合、特別に在留を許可する事情がないとされ、在留を認められません。また、1回目の難民申請時には在留資格があった人でも、難民不認定となった結果、2回目以降に申請した場合には在留資格が原則認められません。日本の難民認定は非常に厳しく、出身国に帰れば危険がある人の多くが、複数回の申請により結果的に非正規滞在となっています。
6. 難民はなぜ「収容」されるの?
在留資格のない外国人は、強制的に国外へ退去させる「退去強制」の対象となり、送還まで身柄を拘束するためとして、入管の施設に無期限で収容されます。収容は、刑法に違反した人が刑期の間刑務所に入ることとは、まったく異なるものです。難民であっても在留資格がない場合には、収容の対象となります。
現在の入管法では、難民申請中であれば送還されることはありませんが、許可がなければ施設内外での診療を受けることはできず、知人との通信や面会も制限され、期限がわからないまま数年にわたり収容される人もいます。収容施設外の情報にアクセスできないため、難民審査のための証拠提出の準備も困難となります。収容の長期化が問題となっており、施設内での死亡や、人権侵害も指摘されています。
また、収容を一時的に解かれ「仮放免」となる人もいますが、就労や健康保険加入は認められず、居住地域外への移動は禁止され、必要最低限の生活が保障されない状態で暮らすことになります。
7. 難民が増えると治安が悪化するのでは?
難民キャンプの治安状況や、難民を多く受け入れているヨーロッパでの難民による犯罪の報道などから、難民の存在が治安悪化やテロの可能性と結びつけて考えられることはよくあります。しかし、難民であることと、その人が犯罪やテロを起こす可能性はまったく別の問題です。一部の難民による犯罪やテロの例があったとしても、すべての難民に対してそのようなイメージをあてはめるのは適当ではありません。
また、もし国境を越える人の移動自体が治安維持にとってリスクと考えるのだとすれば、それは難民に限らず観光やビジネスでの来日にも同様のリスクがあることになります。外国人と治安の悪化が結びつけられることも多くありますが、近年日本国内では、外国人の在留者数は増えているものの、外国人による犯罪の検挙数は下がっています。
また、難民となって逃れてくる人は暴力やテロの被害者でもあるということも、忘れてはならないことです。そうした背景を考えず、一定の属性と犯罪の可能性を結びつけること自体に、差別や偏見が含まれていないか、注意する必要があります。
8. 難民を受け入れると社会の「重荷」になるのでは?
難民も、逃れた先の新たな土地で働き、納税し、社会の中で自立していくことができる人たちです。
社会に貢献していきたいと思っているという声も、支援する中でよく聞かれます。ただ、最初の第一歩には後押しが必要です。日本語支援や就労支援などを通して、日本の習慣について知る機会があれば、地域社会でスムーズに暮らしていくことにつながり、近隣の人との接点が生まれ、孤立を防ぐことになるかもしれません。
難民として生き延びるという過酷な経験は時に、生きる力の強さやたくましさにもなります。逃れた先でそれらを活かし、社会的に成功している人、受け入れ社会に大きな貢献をしている人もいます。一方、難民となり教育の機会を奪われた人や、拷問の経験から心身の傷を抱え続ける人もいます。
日本は難民条約加入前の1970年代後半からインドシナ難民を1万人以上受け入れたことがあり、多くの方が日本に暮らし続けていますが、難民条約に基づく受け入れは、年間数十人にとどまっています。平和で安全があり、人が支えあって生きる仕組みがある国が、教育や医療を難民に提供することは価値ある取り組みであり、日本の社会が寛容さや多様性を深めることにもつながるのではないでしょうか。
9. 日本で働くことを目的に難民申請する人がいるの?
難民として認められれば安定した在留資格を得て働くことができ、また難民申請中でも、要件を満たす人には、難民申請から一定の期間が経つと就労が認められます。難民申請の結果が出るまでには平均4年以上*かかり、その間の生活のため、自力で働き、生計を成り立たせたいと希望するのは当然のことです。
制度を濫用しようとする人がいる可能性はありますが、近年は入管庁の運用により、複数回難民申請をしている人はほとんどの場合就労が認められず、就労目的で難民申請を繰り返す人がいるという指摘はあたりません。
日本では適正な難民認定がされておらず、本来難民と認められるべき人が認められないため、難民として保護を必要とする人が申請を繰り返さざるを得ませんが、就労できず厳しい生活を余儀なくされている実状があります。
10. 難民は日本でどのような生活をしているの?
日本には、難民の背景のある多くの方が暮らしています。難民申請をせず、留学や就労などを通じて来日する方もおり、受け入れや在留資格の状況はさまざまです。
在留資格や就労資格がある方の多くは自立した生活を送っていますが、逃れてきた直後の方々は、最低限の衣(医)・食・住もままならず、時にはホームレス状態になってしまう人もいます。難民申請中は、政府からの支援金を受けられる人もいますが、支援金を得る審査に数ヶ月かかるうえ、受給額も生活保護と比較し、3分の2程度と限られています。要件を満たす人には、難民申請から一定の期間が経つと就労が認められるため、働きながら、平均3年*かかる審査の結果を待つことになります。
日本の社会の中で、就労資格のある人は働き、食事をしたり、眠ったりする日々の生活には、多くの人々と変わらない部分もありますが、言葉や文化の違いがある生活になじみ、先行きの見えない難民申請の結果を待つのは厳しいことです。また、不認定となれば就労や健康保険加入も認められず、必要最低限の生活が保障されない状態で暮らすことになります。親しい家族や友人と離れていることから、孤独を感じることも多いです。
* 一次審査の平均処理期間と審査請求の平均処理期間を足し合わせた期間.2023年11. 難民はいつかは母国に帰るの?
母国へ帰ることだけが難民の目指す先ではありません。難民を生み出す原因である紛争や人権侵害の根を断つことは簡単ではなく、平和と秩序が回復され、国として必要な機能やインフラが整備されるようになるまでには、相当な時間を要します。
長い時間を経て帰国を実現させる人もいますが、一方で、数十年の歳月を経て、母国で新たに生活を立ち上げることは難しく、帰国を断念する人もいます。逃れた先で家族ができたり、新しいチャンスを得たことから、日本を第二の故郷とし生きていくことを選択する人も稀ではなく、なかには難民として認定された後、帰化して日本の国籍を得る人もいます。また、家族が逃れた先で「難民」として生まれた人など、そもそも帰るべき「故郷」を持たない人もいます。
12. 難民を受け入れるよりも、難民が生まれないよう取り組むべきでは?
難民が生まれない、紛争や人権侵害のない秩序の実現に向けた取り組みは重要で、外交努力はもとより国際機関やNGOなど様々なアクターが取り組んでいますが、紛争や人権侵害のない世界は一朝一夕に実現するものではありません。
例えば、停戦が実現するまでに数十年、荒廃した国を再建するまでに最低数年かかっています。その間も、難民となった人たちは生きていかなくてはなりません。平和で安全な国がそのような人たちを受け入れ、難民に尊厳や希望を回復する機会を提供することも、秩序の実現と同時に必要です。
(2022年1月5日掲載、2024年3月31日最終更新)
▼さらに詳しくは、「日本にいる難民のQ&A(PDFファイル 27MB)」をご覧ください。
※ 2019年更新