難民支援協会と、日本の難民の10年

企業のNPO活動サポート 元パナソニック株式会社 日塔憲夫さんのお話

私はパナソニックを3年前に定年退職しましたが、現役時代に関わりのあることなどが新聞・テレビなどで報道されるとやはり興味を持って見てしまいます。昨年5月から5回にわたってNHKで放送されたドラマ「風に舞うビニールシート」もそうした番組のひとつで、見るたびに難民支援協会(JAR)の活動を思い出していました。

JARとの出会い?強烈な印象?

 難民支援協会(JAR)を初めて知ったのは、JARの活動にボランティアとして参加していたパナソニックの一社員がきっかけでした。パナソニックでは、1998年から社員が地域で参加するボランティア活動を資金面で援助する「ボランティア市民活動資金支援プログラム」(現:「パナソニック地球市民活動支援プログラム」)を実施しており、2003年、社員のH君がこの制度を利用してJARの広報活動を強化するための企画を申請してきたのです。申請の内容は、JARがイベントや街頭などで使う活動紹介のためのパネル作成費用を支援して欲しいというものでした。
 
 パナソニックのこの制度は、社員の地域におけるボランティア活動を会社としても積極的に資金援助するもので、企業の社会貢献活動としては画期的であったように思います。当時私は、このプログラムの関東地区の担当でもありましたので、もう一人の担当であったTさんと一緒に、申請内容の確認のために初めてJARを訪問することになりました。

 申請書の地図を片手にJARを訪れた時の印象は、大変強烈で生涯忘れることはできません。成人向け映画館などの入った古びた雑居ビルは、その存在だけで周囲を圧倒しており、私たちは不安に駆られながら、薄暗い階段を上ってゆきました。事務所は、4階の廊下の一番奥にある狭い2間続きの部屋で、カーテン一枚で仕切られた相談コーナーの隣でお話を伺ったことを覚えています。

 申請内容についても確認をしたのですが、これまで使ってきたJARの活動紹介パネルは模造紙に手書きで書かれた2?3枚組みの簡易なもので、長い間使われてきたらしく汚れて既にボロボロの状態にあり、当時JARを知ってもらう唯一無二のツールを作成するお手伝いをすることは意義のあることだと思いました。

 そのような状況でしたので、最初はこの団体は本当に大丈夫なのか?と不安になりましたが、JARの活動の厳しさや広報活動の必要性、日本に来ている難民の方々の苦しい実情、また退職金を食いつぶしながら働いているスタッフもいるということを知り、この団体やスタッフの志の高さに心打たれました。

 当時のJARには、何といっても「悲壮感」がありました。また同時に、自分達が難民に対する支援をしなかったら誰がするの、という強い「使命感」に燃えていたように思います。この支援を断ったら、JARで働く人たち、そしてJARを頼ってくる人々はどうなってしまうのだろうという必死さが伝わってきて、とても断れませんでした(笑)。

大きな事務所で仕事をする
大勢のスタッフを見て感慨深げな日塔さん(真ん中)と
現在の担当者である田中さん

支援の広がり

 パナソニックの一社員の働きかけがきっかけで始まったJARとの関係は、支援プログラムだけでなく、「基礎編/上級編 難民アシスタント養成講座」の会場提供、パソコンやプリンター、プロジェクターの物品提供、スタッフの研修等へと広がりました。

 また、社団法人日本経済団体連合会(経団連)の1%クラブ(経団連に加盟している企業の社会貢献担当者の会)にJARを紹介したことも懐かしく思い出されます。当時事務局長であった筒井さんが、難民の方々のVTRなどを見てもらいながら現況を説明、その厳しい実態を知った他の企業からも理解と支援が得られることに繋がったのは嬉しい限りです。やはり、永年にわたるパナソニックの社会貢献活動に対する評価と信頼が、他の企業の方々にアピールし共感していただいたのではないかと感じています。

 少し横道にそれるかも知れませんが、私の(JARに限らず)NPOとの付き合いかたの基本的スタンスは、「自己に厳しくお互いに切磋琢磨し更なる高みに向けて努力する」というものでしたので、JARに対しても結構厳しく注文をつけたように思います。

 例えば報告書の内容や広報のあり方、さらには企業との連携のあり方などさまざまな場面で、注文やお願いをさせていただきました。時には「うるさい」と思われたかもしれませんが、お互いの立場を理解することに役立ったのではないでしょうか。


企業がNPO活動を支援するメリット

 パナソニックは現在、企業市民活動(企業市民としての社会貢献活動)として、持続可能な社会の実現に向けて、「育成と共生」を活動理念に「環境」と「次世代育成支援」を重点分野として、社会課題の解決に取り組んでいます。

 企業の社会貢献としては、文化・芸術支援も大事ですが、個人的には、社会的に弱い立場にいる人たちへの支援がもっと広がるといいと思います。例えば難民問題などは、一企業だけの支援では解決が極めて難しい大きな社会的課題の一つで、なかなか社内の理解を得るのが難しいテーマです。しかし、若い社員の中には留学経験のある者もおり、パナソニックが難民支援をやっていることを知って驚くとともに、あらためて会社での仕事に誇りとやりがいを感じることもあるようです。

 NPOの実態は社会の実態とイコールです。社員が生活者としての視点を持って社会に貢献していくことで、社員のレベルが上がっていくと思っています。

 今日企業も厳しい時代を迎えています。世界を相手に生き抜いてゆくための方策を必死に模索しています。私は(個人的見解ですが)そうした厳しい環境下でも、企業の社会貢献活動は必要なものと信じています。そのためには企業とNPOがパートナーとしてお互いにレベルアップしつつ双方メリットのあるような提案が不可欠です。NPOとしての専門的な知識や経験の中から、これだったらお互い接点をもつことができるメニューをいくつか用意してもらって実現への糸口を見つける、その積み重ねが大切だと思います。


JARへのメッセージ

 JARも今年の7月で創立満10周年ということですが、業務が多岐に渡ってきてやるべきことが増えて大変だと思います。しかし、手間隙のかかる難民申請手続きから難民の方々への日常的お世話まで行っているのはJARだけなので、是非ともこの意義ある活動を続けていって欲しいと思います。全てを投げ打ち安全を求めてたどりついた日本でも、食べ物がない、家もないといった状況を変えていくには、今後もJARの役割はますます大きくなってゆくと思います。いろんな人の助けも必要なので、広報の腕の見せどころですね。

 こちらのスタッフのみなさんは連日多忙を極めているとのことですが、本来、JARのなすべき仕事は少ないほうが望ましいと思います。国・企業・個々人それぞれのレベルでの理解が深まり、社会全体として難民問題を支えることができれば、JARももっと別の観点から取り組むことができるからです。

 次回会うときは、スタッフ数も増えて、仕事にももうちょっと余裕のあるJARになっているといいですね。

「次回会うときは、スタッフ数も
増えているといいですね。」


(インタビュー:2010年7月)

パナソニック企業市民活動
http://panasonic.co.jp/cca/

2010年9月10日掲載