狭すぎる条約の解釈。ロヒンギャ難民でさえも不認定
日本政府の不認定の決定は、「本国政府が申請者を反政府活動家として殊更に関心を寄せる対象にしているとは認められない」*1 など難民条約の解釈を極端に狭めており、認定されるべき人を漏らしている可能性が強く疑われます。
例えば、ミャンマーにおける少数民族であるロヒンギャの不認定は、日本の解釈の狭さを示す一つの事例です。日本では、これまでに約120人のロヒンギャが難民申請を行い、19人が難民認定、約80人が人道配慮による在留特別許可を得ましたが、残りの20人弱は難民認定も人道配慮による在留も許可されていません。昨年は、ミャンマーにおけるロヒンギャへの集団虐殺が勃発し、それにともなって数ヶ月の間に65万人を越える人が隣国へ逃れました。国連が「民族浄化の教科書的事例」と述べるような事態にも関わらず、ロヒンギャを難民と認めない日本の状況は憂慮すべきです。
不服申立ては適切に機能しているのか?
難民認定の審査は、国際情勢の知識や出身国の情報、申請者から提出されるさまざまな資料の読み込みなどが必要であり、簡単ではありません。本来は人の命にかかわる手続きに間違いは許されませんが、一次審査での間違いを正す仕組みとして、不服申立て手続きがあります。各国で似たような仕組みがあり、不服申立てで保護される人は常に一定数いるのが実態です。
日本の場合、不服申立ての決定権者を一次審査と同じ法務大臣が担っている、という問題があります。その問題を解消するために、2005年に 難民審査参与員制度が導入されましたが、十分に機能しているとは言えない状況です。
2013年から16年で、法務大臣は、難民審査参与員が「難民認定すべき」とした申請者31人のうち、約4割の13人に「不認定」の判断を下しました。この人数を見る限り、「法務大臣は参与員の提出した意見を尊重して、審査請求に対する裁決を行う」という法務省の方針と実態には乖離があると言えるでしょう。
不服申立て手続きにおける近年の認定数を見ても、適切に審査が行われているのか強い懸念を覚えます(表1参照)。
人道配慮による庇護も大幅に減少。「新しい迫害」の保護も進まず
人道配慮による在留許可者も減少し、前年の半数以下である45人となりました。「本国等の情勢を踏まえて」許可された14人以外の基準が不明確でありますが、10年間で最も少なく、全体的な庇護数が半分以下に減少しているためこの点においても強く懸念されます(表2参照)。
2015年9月、法務省入国管理局が発表した「難⺠認定制度の運⽤の⾒直しの概要」において「真の難⺠を迅速かつ確実に庇護するために」制度改善(表3参照)を行うとされてきましたが、実際には、制度の濫用・誤用への取組みが先行している状況です。難民の保護については若干の進捗がみられるもののその内容については検討中とされています*2 。日本政府のいう「新しい迫害」に基づく認定者は、2015年9月に公表されて以来、2016年末までは0人です*3 。新しい迫害が定義されないまま、例えばドメスティック・バイオレンスなど難民として認められる可能性のある*4 人たちが、「夫婦喧嘩等」の「親族間のトラブル」とされ明らかに難民として該当しない迫害とみなされている可能性があります。
世界では第二次世界大戦以降最悪の7,000万人以上の人が難民となり、支援を必要としています。このような状況に対して、2016年9月に国連総会が初めての難民・移民に関するハイレベル・サミットを開催し、日本政府も参加して、ニューヨーク宣言を採択しました。そこでは、「難民と移民の権利を守り、人命を救うとともに、世界規模で生じている大規模な人の移動に対する責任を共有する」と述べられています。この責任共有をより強固な枠組みにしていくための難民に関するグローバル・コンパクトの起草作業も本格化し、今年の9月に国連総会での採択が予定されています。
法務省入国管理局「平成29年における難民認定者数等について(速報値)」
*1 法務省入国管理局「平成28年における難民認定者数等について」における添付資料
*2 答弁書第146号 参議院議員石橋通宏君提出難民認定状況に関する質問に対する答弁書
*3 同上
*4 国連難民高等弁務官事務所「国際的保護に関するガイドライン:1951 年の難民の地位に関する条約第1条A(2)および/または1967 年の難民の地位に関する議定書におけるジェンダーに関連した迫害」(2002 年 5 月 7 日)において、「レイプのほか、持参金に関連した暴力、女性の生殖器切除、ドメスティック・バイオレンス、人身取引などのジェンダーに関連した様々な形態の暴力は、心身に深刻な痛みと苦しみを負わせ、国家若しくは私人により、迫害の一種として用いられている行為であることには疑いの余地がない」とされている。
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※ 現在、上記の法務省ウェブサイト(速報値)へのリンクが切れています。資料として、同年3月23日に発表された確定値をご覧ください。(2022年1月追記、2023年6月リンク修正)