企業と異なるカルチャー
私が難民支援協会(JAR)の活動に参加したきっかけは、米国に留学していた時の友人のミャンマー(ビルマ)人の一言です。その人の知り合いが日本に亡命するかもしれないということで、「日本で何かあったときには力になって欲しい」と言われたのです。帰国して、インターネットでJARの存在を知り、勤めていた会社に近かったこともあり、訪ねたのが始まりでした。
当時の事務所の狭さと古さはショックでした。スタッフのお給料にはもっとショックでしたけど(笑)。
だけど、活動内容には感銘を受けました。働いている人たちが、和気あいあいというか、譲り合いながら仕事をしていて、日頃接する営利を追求する職場とは違うカルチャーも魅力でした。多くの制約もありながら目標と可能性の開花に向かってスッキリと生きるスタッフの姿は当時の自分から見て、ある意味の理想形だったのです。
企業人がNPO活動に参加すること
私は企業に勤める人がNPOに参加することは素晴らしいことだと思います。企業に勤めながら、社会に何かしらの貢献をしたいと考えている人は多いのです。当時私自身はコンサルタントの仕事をしていたので、その手法を使って活動を手伝うことができました。会社の再建や改革という自分の仕事と、JARの活動はリアリティをもって結びつけることができました。
これまで私は多くの時間を金融に関連した仕事に従事してきました。例えば金融に従事している人は平たく言えば人のお金の運用をしながら収益を捻出することを考えていますが、生活に困窮している人が大勢いることも知っているわけです。利益だけの追求ではなく、自身が持つ金融の知識をそうした社会に対する貢献として活用できないかと思っているのです。
企業人の視点やスキルがNPOの活動に役立つ場面がたくさんあるはずですし、何かしら貢献したいという多くの人々の情熱を結びつけられたら、それは素晴らしいことだと思うのです。
難民アシスタント養成講座の企画
いいものを創るのであれば、それがNPOであっても正当な対価を受け取るべきだと思います。人件費などそれなりの経費は実際かかっているのですから、講座や講演会の費用は安く設定すべきではないと私は考えていました
「難民アシスタント養成講座」は、まだ立ち上がりの7年前当時から、難民支援専門スタッフ、弁護士、難民といった「国内」の講師陣に加え、「国連」職員、日本政府関係者も登壇しており、インパクトがある内容で組み立てられていました。企業的「差別化」の視点からいうと、JARは非常に強いブランド力を持っていると感じました
この点を整理して、企業が行う研修費用の相場も含めて、受講料の設定についてアドバイスをしました。参加費無料か500円程度が相場のNPOの講座が多い中、消極的な意見もありましたが、受講料を1万円以上払っても受講者の期待以上のリターンがある充実した講座なのです。
また、難民アシスタント養成講座のコンテンツは揃っていたので、私自身が難民問題に詳しくなくてもそれらを「どう見せるか」「どうすれば理解しやすいか」という視点から自分の技術を活用していただき、テキストやプレゼンテーション資料を作成することもできました。
これからの難民アシスタント養成講座
当時、「難民アシスタント養成講座」を受講したい人がそう多くいるとは思えないというJARの内部方の意見は多かったのですが、私はそうは思いませんでした。もっと踏み出していいと思っていました。結果として受講者がのべ1,300人を越え、講座が今も続いていることは驚きません。
今後は「難民アシスタント養成講座」を受講した人たち向けのパッケージができればいいと思います。現在、受講生が自主的な勉強会を行ったりはしていますが、受講後にエネルギーや知恵を出せる場が少ないことはもったいないと思います。是非次のステージに向けての戦力となって頂けるような場を作っていけたらいいですね。
難民支援協会の飛躍に向けて
昨年の事務所引越しをお手伝いさせて頂きました。私が最初に関わった頃の事務所は、パソコンも兼用で、来客があるとスタッフが移動しなければならないような状態だったことを振り返り、感慨深いものがありました。NPOの活動にも安定感や安心感が必要ですからオフィス環境も重要だと思います。
JARがこれから大きく飛躍するには、戦略を変えていく必要もあると思います。自分の経験や技術によって貢献できるのであれば、今後も協力していきたいと思っています。
上原優子さん:
日系大手金融機関、米系コンサルティングファーム、欧州系大手金融機関勤務を経て、現在は青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科 プロフェッショナル会計学博士後期課程に在籍。研究対象は非営利組織であり、NPOの今後の発展に向けて様々な取り組みに参画。現在JARで検討されている難民向けマイクロファイナンスにもメンバーとして関与している。
2010年9月10日掲載