活動レポート

アフガニスタン人難民申請者の収容に対する 声明の発表について

    関連文書:
    みなさま、ありがとうございました。」(2001年11月9日)
    11月27日付けアフガニスタン難民申請者の退去強制令書発布に関する難民支援協会の声明」(2001年11月27日)
    今回の全員の仮放免を歓迎します。」(2002年4月26日)

    報道各社 御中

    2001年10月9日
    特定非営利活動法人難民支援協会
    代表理事 鴨澤 巌

    特定非営利活動法人難民支援協会は、10月3日に法務省入国管理局が行ったアフガニスタン人難民申請者の一斉摘発に関して非常に強い懸念を有しており、別紙の通り声明を発表いたします。お問い合わせは、当協会(担当:筒井)までお願いいたします。
    特定非営利活動法人難民支援協会は、1999年7月に設立された非宗教、非政党、非営利のNGO(非政府組織)です。現在は国連難民高等弁務官(UNHCR)とパートナー契約を結び、迫害を逃れて日本に来ている難民申請者、難民の方々の生活面から法的手続までの総合的な支援を行っています。

    アフガニスタン人難民申請者の収容に対する難民支援協会の声明

    去る10月3日、法務省入国管理局はアフガニスタン人難民申請者を、出入国管理及び難民認定法違反容疑で一斉に摘発しました。特定非営利活動法人難民支援協会(以下、当協会)はこの件に関して強い懸念を有しており、以下の声明を発表します。

    難民申請中の者に対する収容は行われてはならない。

    故郷を去らなければならず、かつ迫害をおそれて戻ることができない、という難民の特殊性に鑑み、非正規な入国という事実をもって処罰されてはならないこと(難民条約第31条(※1))、難民申請中の者が収容されてはならないこと(UNHCR収容に関するガイドライン)、はそれぞれ国際的に確立している原則であるといえます。

    特定の国籍を対象とした難民申請者の取り締まりは行われてはならない。

    難民申請は個々の事情を勘案し、保護の必要性を判断する手続です。それを国籍が共通していることのみを理由として一斉に摘発することは難民申請手続における適正手続の原則を著しく欠いていると言わざるをえません。

    難民認定手続を通して把握した情報を摘発の目的に流用してはならない。

    政府における難民申請を判断するためだけに用いられるべき個人情報が、その人を摘発し、収容するために流用されたのではないかと、難民支援協会は懸念しています。

    今回の摘発は、難民申請者に対して深刻な動揺を与えています。

    テロ事件以降、アフガニスタンの情勢を伝える報道が多くなされていく中で、アフガニスタン難民への保護必要性の議論が高まってきた矢先での同国人の収容でした。ようやく保護が現実化してきたという期待が大きかった分、その失望は計り知れないほど大きく、次は自分かもしれないという恐怖が大きく広がっています。このような矢先の摘発は、アフガニスタン人のみならず、他国からの申請者に対しても、不安を広げています。
    以上により、以下の事を求めます。

    • 収容されたアフガニスタン人難民申請者は、即時に放免されるべきである。
    • 難民申請中の収容は二度と繰り返されるべきではない。

    解説

    難民申請中の人に対する収容は行われてはならない。

    国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)執行委員会の結論第44の「難民申請者の拘禁」、さらに1997年7月付「庇護希望者の拘禁に関してのUNHCRガイドライン」等が採用する見解に従い、当協会は難民申請を行っている人の収容は原則として行われてはならないと考えています。日本での難民申請中の者の収容は1997年以降、実務上ほとんど行われなくなっており、この実態は’98年以降の難民認定数の増大とあわせて、ここ数年における日本の難民認定手続改善の大きなポイントであると、関係者の間で評価されていたところであります。難民申請中の者は収容されないという実務上の運用によって、申請者は精神的にも比較的安定し、かつ十分な立証活動の機会を事実上保障することとなってきました。したがって、難民申請中のアフガニスタン人が一斉に収容されたという今回の出来事は、近年の難民認定制度の改善に大きく逆行する流れであるといわざるを得ません。
    さらに、難民が故郷を去る際には着のみ、着のままの状態で逃れることもあることも稀ではなく、また、本国の現政権からのパスポート発給等を拒絶されることから、正規のパスポートやビザをを所持しない状態で避難国へ到着して保護を求めることは往々にしてあります。そのような特殊性に鑑み、難民については非正規な入国という事実をもって処罰されてはならないという考えが広く受け入れられているところです。これは日本も1981年に加入している難民条約第31 条にも定められているところであります。
    世界中において非正規な移動が増大する中においても、さらにまた9月11日のアメリカにおけるテロ事件後においても、ジュネーブにて開かれた難民保護に関する国際会議(※2)において難民申請者の収容は原則すべきではないという原則は、なおヨーロッパ他先進国を中心とする多くの国に受け入れられているという事実を忘れてはなりません。

    特定の国籍を対象とした難民申請者の取り締まりは行われてはならない。

    報道されたところ及び当協会の把握するところによれば、日本政府によって10月3日、アフガニスタンからの難民申請者が一斉に摘発を受けました。10月3日に一斉摘発・収容された難民申請者(当協会は9名を把握)は、そのほとんど全てがアフガニスタン国籍の(あるいは同国籍であることを主張する)者です。難民申請は個々の事情を勘案し、保護の必要性を判断する手続です。それを国籍が共通していることのみを理由として一斉に摘発することは難民申請手続における適正手続の原則を著しく欠いていると言わざるをえません。
    万が一テロ事件の容疑があるのであれば刑事手続の原則にのっとって許される場合のみ身柄を拘束し取り調べを行うべきです。難民申請をした結果入手できた個人情報をもとに、その出身国の国籍のみを理由として身柄を拘束してはならないと難民支援協会は考えています。

    難民認定手続を通して把握した情報を摘発の目的に流用してはならない。

    前記9人全員は、日本政府に対して難民として認定されることを求めて申請をしています。つまり、危険の待ち受ける祖国へ送り返されないよう自ら日本政府へ名乗り出て保護を求めているのです。難民認定申請書に住所等を記入させ、またその後の難民認定手続における事情聴取の中でその個人情報を取得し、その取得した情報に基づいて10月3日に日本政府は彼らの自宅に行き、身柄を拘束しました。政府における難民申請を判断するためだけに用いられるべき個人情報が、その人を摘発し、収容するために流用されたのではないかと、難民支援協会は懸念しています。

    難民申請者への深刻な影響

    アフガニスタン人難民申請者の摘発に対して、アフガニスタン人難民申請者のみならず、他国からの難民申請者の間でも強い動揺が広がっています。特にアフガニスタン人難民申請者に関しては、そのほとんどが9月11日以前に日本で難民の申請を行い、アフガニスタン情勢を伝える報道が増えていく中でアフガニスタン難民への保護の必要性の議論が大きくなり、保護必要性の議論が高まってきた矢先での同国人の収容であり、ようやく保護が現実化してきたという期待が大きかった分、その失望は計り知れないほど大きく、次は自分かもしれないという恐怖が大きく広がっています。また、その他の出身国の難民申請者、また難民申請希望者にも、自分も収容され、迫害の待ち受ける祖国に送り返されるのではないか、という恐怖を抱いている人が増えています。このことは本来、故郷に送り返されないために難民申請を行なうはずの手続が、難民申請の抑止になりかねず、歪な手続へと導くことになりかねない問題です。このままでは官民を含めた関係者の努力によってこれまで改善を続けたきた日本の難民認定制度を著しく後退させかねない、と難民支援協会は懸念しています。

    注釈

    ※1 難民条約第31条 【避難国に不法にいる難民】
    1. 締約国は、その声明または自由が第1条の意味において脅威にさらされていた領域から直接来た難民であって許可なく当該締約国の領域に入国しまたは許可なく当該締約国の領域内にいるものに対し、不法に入国しまたは不法にいることを理由として刑罰を科してはならない。ただし、当該難民が遅滞なく当局に出頭し、かつ、不法に入国しまたは不法にいることの相当な理由を示すことを条件とする。
    2. 締約国は、1の規定に該当する難民の移動に対し、必要な制限以外の制限を課してはならず、また、この制限は、当該難民の当該締約国における滞在が合法的なものとなるまでの間または当該難民が他の国への入国許可を得るまでの間に限って課することができる。締約国は、1の規定に該当する難民に対し、他の国への入国許可を得るために妥当と認められる期間の猶予及びこのために必要なすべての便宜を与える。
    ※2 難民保護のための国際会議

    この国際会議は「グローバル・コンサルテーション」(世界協議)と呼ばれ、2001年1月より1年以上にわたって続けられる会議の総称です。これは難民条約の採択50周年を期に条約の見直しや再活性化のために、条約加盟国政府とUNHCR(国連難民高等弁務官)を中心に話し合いを続けていくものです。その結果は難民条約の趣旨を再確認する宣言や、これまでになかった解釈の基準作り、難民を守るための新しい基準策定などにつながっていくとされています。 2001年9月28・29日にはジュネーブの欧州国連本部にて収容問題を含む「難民の受け入れ」等を議題とした会議が開かれました。
    以上